2013年4月6日土曜日

海外進出を成功させる戦略その2 「集約」 コークの味は国ごとに違うべきかから


今回は、集約戦略についてです。

この戦略は、国ごとの規模の経済よりも大きな規模の経済を作ることが目的です。第五章の冒頭に次のように定義しています。

集約戦略の定義


“集約は、国ごとと世界全体の中間のレベルで展開するクロスボーダーのメカニズムを発見し、実践しようとするものである。そして、通常は会社の経営者や現地の実働部隊だけは無く、会社内部の中間層がかかわっている。集約は組織の上級中間管理職に大いに依存するものと捉えるべきだ。国ごとの類似点を一般的な適応戦略よりも深く、しかし完全な標準化ほど深くはなく追及するのが集約の目的である。鍵となるのは、第二章で強調した差異の違いという考え方である。物事を集約することによって得られるものが非常に大きく、集約でできるグループ内での差異はグループ間の際に比べれば小さい。”

地域の重要性


グルーピングの枠組みとしてはCAGEすべてが対象となりますが、この章では特に地理的な要素である地域について深く掘り下げています。理由は、国際貿易の中で地域内での貿易が占める割合が増えてきているからです。具体的には、1958年のアジア・アオセアニア地区での地域内の国同士の貿易は35%でした。これが2003年には54%に拡大しているそうです(出典:国連、国際貿易統計年鑑)過去の推移はヨーロッパ、アメリカ大陸でそれぞれ違いますが、50%を超えているのは同じです。

また、アラン・ラグマンとアラン・ヴェルベクの分析によれば、フォーチューン・グローバル500社の中でデータが入手できた366社のうち、2001年に売上高の50%以上を地域内であげた会社の割合は88%で、このサブグループでは、地域内の売上高が占める割合は平均80%に上っているそうです。

地域化の例としてトヨタを取り上げています。
地域戦略には次の6つがあり、トヨタの1980年代からの発展にはそのすべてが登場するのがその理由です。
海外展開における地域戦略の基本形

地域戦略の基本形と事例をまとめました。

基本類型
内容
事例
採用理由
1.地域か本国か
地域の絞り込み。基本的にはここからスタート
サムスンのメモリーチップ事業。研究開発と生産拠点の大半を韓国に集約
輸送費売上高比率が低いため、研究開発と生産の間の迅速なフィードバックを可能にすることが地域分散に勝る。
低価格ファッション衣料チェーンザラ。商品の生産をスペイン北西部で行い、西ヨーロッパ市場に供給
デザインから市場投入までのリードタイムを2-4週間にできることで、流行への迅速な対応が出来る。流行が去った後の値下げ販売を最小限に抑える
2.地域ポートフォリオ
複数の地域でそれぞれ独立した事業を行う
トヨタの1980年代北米進出
成長オプションの獲得とリスク軽減
海外市場にアクセスするために必要
GEによるヨーロッパ部門強化
自前の成長ではなく買収による地域ブレゼンスの確立によるリスク低減
3.地域ハブ
大前研一提唱「トライアド戦略」
ハブから各国に各種経営資源を提供
デル
注文生産という独自のビジネスモデルで流通障壁を回避。北米での成功の後、他地域でも業界首位に立とうとする戦略に移行
4.地域での規格化
地域間で固定費を共有
トヨタの全世界での基本規格数削減
設計コスト、技術、管理、調達、操業などの面でより大きな規模の経済追求
5.地域への委任
特定の製品供給を地域に委任
特定の役割を地域に課す
トヨタ:グローバル(アメリカ以外)ピックアップトラック用エンジン、マニュアルトランスミッション供給をアジア各地の工場から行う
規模の経済に加え、特化の経済を得るため
6.地域ネットワーク
別々の地域にある経営資源に作業を振り分け、同時に経営資源の統合を行う
トヨタ
別々の地域間で過度な特殊化と柔軟性不足を回避しつつ補完を達成する


地域化の可能性を探る診断


地域化でメリットが出るかどうかの簡易診断方法が紹介されています。引用しようと思ったのですが、著作権侵害になりそうなので、一部だけ紹介します。

診断方法としては、「会社の足跡」、「会社の戦略」、「国のつながり」、「競争への配慮」それぞれの切り口で2問づつ合計8問に回答し、合計点がプラスなら地域レベルでの戦略が非常に有効だとしています。それぞれの問いにはabc3つの選択肢が用意されa-1b0c+1になっています。

例えば、事業を行っている国の数 a) 1~5か国、b)6~15か国、c)15か国超となっています。

これを見ると、クロスボーダーの集約でメリットが出る規模は相当大きなものの様です。

CAGEの枠組みの他の要素による集約

地理以外の要素としてまず、考えられるのが文化的集約です。もっと端的に言えば言語での集約があります。そのほかに制度面での集約として調達手続きや慣習が似ている英連邦や、経済的な集約として先進国と新興国を分けるなどがあります。

さらに、販売経路、顧客の業種、グローバル顧客管理、そして最も多いのが事業内容による集約があります。

余談ですが日本が少し特異だと思われるのは、事業内容による集約が機能と組み合わされていることです。例えば製品群で事業部が構成されている企業は多くありますが、製造までにその範囲が限定されており、販売は別組織になっている企業が多いのではないでしょうか。これが、日本の製造業がプロダクトアウト思考からどうしても抜け出せない根本原因だと思います。

集約戦略の注意点


集約の基盤は地域だけではなく、様々な形での国とグローバルなレベルの中間に位置する戦略が可能になります。戦略を適応するうえで次の4つが注意点になります。

1) 集約することで組織が縦割りになり、様々な機能が妨げられるリスクがある
2) 集約は組織を複雑にする傾向がある。
3) 集約の切り口は多い一方で全ての面で集約を実現するのは一般的に不可能。従って何による集約を行うかの選択が必要になる。
4) 集約の基盤を構築するためには数年かかる。そのためその基盤を頻繁に変更すると最悪の結果をもたらす。

集約の切り口選択を行う上での分析を、先に紹介したADDING価値スコアカードを活用することで、抜けもれなく行うことができます。

事例としてタタ・コンサルタンシー・サービシズがラテンアメリカの地域デリバリーセンターを開設するかどうかの意思決定の例を249ページに紹介しています。この例では、コスト水準がインドより高い事が問題でした。しかし、ラテンアメリカの拠点が必要な大型グローバル案件のへの対応、「統一のグローバル・サービス標準」を提供する会社としての地位確立に寄与することが分析の結果明確になり拠点設置の判断を行ったとのことです。

集約の管理

様々な企業がこの集約戦略を採用しています。上述したように、集約の切り口は様々であり、それがためどの様に管理するかが重要になります。ポイントとしては6つです。

1) 注意点に記述したように、集約は組織が複雑になる傾向があるが、そこから発生する問題の解決を組織構造に求めるのは間違いである
2) どの切り口で集約するかは、検討を重ねた合理的な根拠に基づいて決定するべきである
3) 複数の切り口による集約を追及する場合には優先順位を設定する
4) 集約のアプローチを選択する際には、本質に踏み込んで分析する必要がある
5) その際には、競合、市場の動きなどの外部環境分析も必要である。
6) 集約の基準を選ぶ際の最も有力な尺度は、クロスボーダーで事業展開を行うに当たり目標とする比較優位を拡大できるかにある。これを実現するには長期での取り組みが必要で、組織変更は緊急時に限るべきである。

要は、長期的に取り組む必要があるので集約を行う際は詳細な分析を行ったうえで実行し、一旦実行し始めたらその軸をぶらさないことが必要と言う事ですね。

海外進出を成功させる戦略その2として集約を今回は紹介しました。

本書ではクロスボーダーの戦略として紹介されていますが、国内のビジネスでも複数の事業がまとまってグループを形成している場合には有効な戦略だと思います。

最後に、筆者が見聞きした国内での集約戦略の例を紹介します。

◆ バックオフィス業務のシェアードサービス化

全国に30拠点展開している企業が、それぞれの拠点で行っていた書類のハンドリング業務を1か所にアウトソーシングし集約。5%程度の収益改善を実現。

◆ 地域アフターサービスパーツセンターの設置

複数の輸送機器メーカーが販売会社単位に在庫されていたパーツを多段階に集約。在庫金額を50%削減。

◆ コールセンター

業務毎にバラバラだったコールセンターを1か所に集約

この中で、パーツ在庫の集約はキャッシュフロー改善に相当な効果をもたらしています。一方でサービスレベルの維持が顧客満足度に直結するために、実行するにはどうやってサービスレベルを担保するかの詳細な検討が必要になります。

このために、パーツを集約している企業はサービスレベルの維持と、需要の頻度を天秤にかけて多段階(分散して持つもの、地域に集約するもの、全国で1か所に集約するものに分ける)に集約しています。

御社でも集約戦略が有効かどうか是非検討してみてください。
次回は3つ目の戦略「裁定」の内容を紹介します。

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