2013年3月30日土曜日

海外進出を成功させる戦略その1「適応」コークの味は国ごとに違うべきかから その(2)

+水谷穣


今までの投稿を読まれて、私は海外進出反対派なのかと思われた方がいるかもしれませんが、それは違います。 積極的な賛成派です。

規模を問わず多くの日本企業が海外、特にアジアに根をはって活躍することが日本経済の活性化につながると思っています。

もう一つは、国内の市場環境が大きく変わろうとしているなかで、今までのやり方だけをまもるのではなく、企業を変革させる一つの方策として海外進出を行うことは必要な事でもあると思います。

一方で繰り返し書いているように、海外進出には起業と同じリスクがあります。日本国内の会社の生存率は、いろいろな数字が出ていますが、一番厳しいもので1年目40%、2年目15%とあります。

日本人が日本で起業する分には、ある程度事情も分かっていて、人とのつながりもあり、それなりの目算がある中で活動しているにもかかわらず、この実績なのです。土地勘、人々とのネットワークが無い海外では、このリスクに加えCAGEの差異があるのでそのハードルは、当然高くなります。

だから海外進出を止めなさいと言っているわけではなく、成功するためには情報を可能な限り集め、想定されるリスクへの対応策を考え、早いサイクルでの仮説検証・次のアクション策定を行う仕掛けを運用する必要があると言うのが私が言いたいことです。

経営者自らが進出先に常駐できるのであれば、必要ないかもしれません。それができないのであれば、遠隔地であっても、常に状況を把握できる状態にしておく必要があります。状況の可視化には、あらかじめ想定した「計画」が必要であり、そのためのリスク洗い出しと、対応策がセットになった計画を用意しておく必要があるのです。。

とはいっても、日本にいて一般的に集められる情報は大ざっぱすぎます。進出先に詳しい調査会社に頼むにしても、具体的に欲しい情報を提示しないと、一般的に集められるものと大差ない結果になってしまいます。現地に行って活動してみないと分からないことは沢山あります。ではどうするか?


事前に準備すべき内容


少なくとも下記3点は必要だと思います。


1. 進出を考えている事業での儲け方の本質を次のレベルで整理する

A) どんな顧客に、何を、いつ、いくらで売って、どうやって儲けているのか。
B) 固定客、優良客はどうして自社の商品・サービスを買ってくれているのか、なぜいつも買ってくれるのか。
C) 商品・サービスの供給をどう担保しているのか。

2. 儲けの本質の要素がどれだけ進出先にそろっているのかを検討する

A) 顧客層、提供商品・サービスの供給源・ロジスティックス、必要な仕掛け、支払い意志金額、費用
B) 本拠地での優良客になって貰う要素が、進出先でも同じか
C) 同じ品質の供給源は確保できるのか。日本からの場合、リードタイムが伸びることにどう対応するのか。そのコストで儲け方に影響が出ないか。

3. 儲けの本質の要素がそろっていない場合、どうやって対応するのか?代替案で想定している儲け方が成り立つのか


お気づきだと思いますが、前回紹介した、CAGE分析、ADDING価値スコアカードの構成要素とほぼ同じ内容です。客観的に進出事業の儲け方を整理することで、「なぜ」海外進出が必要なのかの理解を関係者全員が深めることができます。これによって、想定外の事態が起きた時に、失敗しない対応を現場で行なうことができるようになるのです。

「なぜ」取ろうとしてる行動が必要なのか、実行チーム全員が共有するアプローチは英国海兵隊の経験から導かれたもので、別途ご紹介します。興味のある方はこちらの本を読んでみてください。「英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方」

さて、前置きが長くなりましたが今回は「コークの味は国ごとに違うべきか」の2部 「国ごとの違いを成功につなぐ」です。基本的な戦略として3つのA、適応(Adaptation)、集約(Aggregation)、裁定(Arbitrage)からなるAAA戦略が紹介されています。



国境を超えるためのビジネス戦略その1「適応:Adaptation」とは



この章のタイトルになっているのが、「インドのマクドナルドには羊バーガーがある」です。適応には様々なツール(アプローチ)があり、グローバルに展開している大手家電10社を含んだ種々の企業の例が提示されています。

極端な現地化と極端な標準化の間には、適応のツール(および補助ツールがたくさんあります。その基本は「多様化」です。そして多様化による弊害を限定するための「絞り込み」。企業内部の負担を軽減するために取る「外部化」。多様化のコストを減せるように行う「設計」。適応の効率を高めることを目的とした「イノベーション」。これらをここではツールと呼んでいます。下はそれを図式化したものです。(P179 図4-2適応のためのツール)


適応のためのツール
適応のためのツール


モノやサービスを買う購買行動のステップやパターンは国を超えて同じだとしても、最終的に買うと決める引き金になる感情の動きは好みに左右されます。

好みを形成している背景が国ごとに違うので、その違いに対応しないと商売にならないということが多様化が必要な理由です。適応自体は目新しいものではありません。

目新しいのは、「ここに挙げたツールを複数組み合わせることで、具体的な指針として提示することができる。」というのが教授の主張であり、話べたな日本企業マネジメントにはその内容を異文化の人々に伝えるにあたりハードルを下げてくれるものかもしれません。

更に、これ等のツールには補助ツールがあります。適応戦略には選択肢がたくさんあるという事ですね。それぞれについて、事例を示しながら解説してあります。P183 表4-2 適応のためのツールと補助ツール


適応のためのツールと補助ツール
適応のためのツールと補助ツール


適応のツールの中で、イノベーションが一番わかりづらいと思うので理解を深めるために、その補助ツール:現地化の一部を引用します。
”インド市場の価格弾性力が極めて高いことに対応するイノベーションも実施された、例を挙げると、単位価格が低いパッケージ(袋売りのシャンプーなど)、生産コスト削減のための現地化、棒状石鹸の片側をプラスチックでコーティングする(石鹸を長持ちさせるため)先進技術の利用などがその例である。”

この文脈からすると、進出先のニーズがわかりさえすれば、日本製造業にとってはお得意の分野だと思われます。この中で製造の現地化について面白いアイデアが紹介されていたので、これもそのまま引用します。
”ボストン・コンサルティング・グループは、プロセスの側に着目した面白いやり方を提唱している。製造過程を新興市場にうまく適応させたかったら使い捨て工場を建てればいいというのだ。使い捨て工場とは、短期的に大量生産を行うためだけに作られた労働集約的な工場だ。

既に実施されている企業もあるかもしれませんが、初期投資コストを抑えられますし、立上げのリードタイム短縮、撤退障壁が小さいという利点があります。撤退障壁が小さいのは、状況が安定しない、発展途上国では万が一のダメージの拡大を抑えるために重要なことだと思います。

次に、適応戦略をとる際の注意点です。
”ここまでで、適応によって得られる恩恵を広範囲にわたって説明したが、適応がADDING価値スコアカードの複数の要素に悪影響を及ぼすこともあるのを指摘しておく。規模の経済、特に量とコストのリンクに関する点が、特にこの文脈では重要である。適応は実質的にグローバルな規模の経済を犠牲にするためだ。(それがこの戦略の限界でもある)。市場規模又は会社市場シェアが限定的であり、その市場に適応するためにかかる固定費が大きい場合、そうした犠牲は特に大きな痛手となる。”
ここに引用したように、適応戦略には限界があり、そのために集約または裁定と組み合わせて使う必要がある様です。



適応の管理



このセクションでは、適応戦略の効果を最大限に発揮する組織についてディスカッションをしています。結論からいうと、戦略を追及するあまりに起こる過剰適応や国ごとの差異を過小評価することで起こる適応不足を避けるために必要なのは、企業グループ内でグローバルな発想を持つことが大事だということです。

どうやってグローバルな発想を組織に根付かせるかという議論は、日本でも盛んに行われています。結局のところ、適応能力に秀でた人間を採用し、色々な場面で経験を積んでもらう仕掛けをつくる事しかないのではないかというのが、教授の主張であり私も同意見です。

このブログを書き始めてから、色々な方々と日本企業の海外進出について話をする機会を持ちました。大々的に調査をしたわけではなく、断片的な印象なのかもしれませんが、社長の決断だけで海外進出を決めている企業が多いと思います。

社長の決断の背後に、冒頭に挙げたような客観的な分析、情報収集が伴っていれば問題は無いのですが、そうではなく何となくのイメージあるいは勢いだけの決断が多いようです。

サッカー日本代表の遠藤選手は「プレイでダッシュしない」ことをモットーとしているそうです。ダッシュしないために、淡々とやるべき事をやる。この姿勢が経営にも必要なのだと、自戒を込めて私は思います。(それでもPK外してしまいましたね。因みに日本代表として8回目のPKで初めての失敗だそうです。こちらの投稿からの情報です)→
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130327-00024092/

進出済みの企業も、リスク管理の観点で今一度自社のやり方を見直されては如何でしょうか。この本で紹介されている戦略の内容を自社に当てはめて検討してみることで、成功への確度が確実に上がると思います。

集約、裁定については次回以降に投稿します。
今回の内容について、コメントご意見頂けると嬉しいです。

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