ラベル コークの味は国ごとに違うべきか の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル コークの味は国ごとに違うべきか の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年5月7日火曜日

世界で成功するための5つのステップ 「コークの味は国ごとに違うべきか」から

+水谷穣

複数回にわたって紹介してきました「コークの味は国ごとに変えるべきか」この投稿が最終回です。今更なのですが、本の目次を紹介しておきます。各章の見出しの下の文章もそのまま引用しています。


“目次
第一部 フラット化しない世界
世界共通戦略を打ち出したコカ・コーラ本部と独自路線を進んだ日本コカ・コーラ。さてその結果は?
第二章 ウォルマートは外国であまり儲けていない
グーグルとウォルマートが国外進出で味わった苦難。グローバル化で消え去ったはずだった「国境」がビジネスにもたらす影響とは?
第三章 ハーゲンダッツはヨーロッパの会社ではない
国境の向こうとこちら-そこにある差異はマイナスばかりではない。そこから価値を生み出せばいいのだ。それを考える枠組みとは?
第二部 国ごとの違いを成功につなぐ
第四章 インドのマクドナルドには羊ハンバーガーがある
第五章 トヨタの生産ネットワークはここがすごい
第六章 だからレゴは後発メーカーの追随を許した
第七章 IBMはなぜ新興国の社員を3倍にしたか
第八章 世界で成功するための5つのステップ
世界が真にグローバルになるのはまだ先のこと。
この不確実な時代にどう対応すればいいのか。真のグローバル戦略実践への処方箋。“


本書におけるパンカジ教授の一貫した主張は、「世界がフラット化することは当面ない、であれば企業がグローバルで活動するためにはその違いを上手にマネージすることが必要であり、多くの企業のやり方を見ると改善の余地が非常に大きい」ということです。国際統合の度合いは、時期的に上がったり下がったりすることはあるかもしれませんが、統合度合いが上がったとしても国ごとの差異が無視できるほどにはなりそうにないし、下がったとしても国際的な経済活動が一切なくなることもないだろうという予測が成り立ちます。

道をしめす


ただ、近代企業のグローバル化の変遷を見ていると、戦争やベルリンの壁崩壊などの体制変更、通貨危機、新興国の台頭など様々な出来事が起きておりそのたびに戦略を変更することは得策ではないと教授は考えているようです。この状況へのアドバイスとしてどの様にクロスボーダー事業に取り組むかの基本姿勢を5つ上げています。

1.たとえ、最終的には世界の統合がもっと進むと信じていても、躓いたり回り道したりすることだってあると考える


クロスボーダー事業は基本的には、長期的なスパンで考える必要があると言う事がメッセージの様です。その例としてゴールドマン・サックスはウォール街で初めてソ連崩壊後のロシアに経営資源を投入した会社ですが、1998年のロシア危機と同国の国債デフォルトの際に撤退し、何年もたった後に再進出したために、2005年時点ではロシア株式・債券引受業務でのランキングが24位だという事例を提示しています。

2.さまざまな、「予測可能なサプライズ」に注意する


先にも述べたように、グローバル環境では大なり小なり予測可能または起こり得るサプライズは存在します。これらのリスクに対応するすべを持つべきで、少なくとも事前にそのインパクトは分析しておくことを勧めています。

3.物事を業界レベルや企業レベルに掘り下げることによって、予測能力を高める


リスクの分析は、マクロではなくてミクロレベルで行うことが必要です。例えば再三リスクの一つとして挙げている為替の変動一つにとっても、その企業の進出形態によって受ける影響は違います。

4.ビジネスが様々な結果(グローバリゼーションの将来に関するものを含む)をもたらすことの重要性を認識する


企業の活動は、社会的な影響力を持つので言動には注意することを勧めています。ユニクロ柳井会長の「年収100万円」発言が最近話題になっていますが、この手のことだと私は理解しました。

5.未来にばかり目を向けて、今をないがしろにしない。


“グローバリゼーションへの風向きが順風か逆風かも含め、未来はグローバル戦略がうまくいくかどうかを大きく左右する。しかし、だからといって影響を及ぼしうる他の要素、特に今そこにある要素をないがしろにしてはいけない。本書で繰り返し強調しているのは、グローバル戦略の今の状況は改善の余地が非常に大きいということである。改善を試みる方法の一つは、行動を始めることだ。図8-1(347ページ)は始めるための5つのステップを描いている。順序は図のとおりでなくてもかまわない。本章の後半はこのステップについて述べる。”

図8-1 グローバル戦略の再検討:実践に取り掛かるための5つのステップ

1.業績の分析
2.業界、競争力の分析
3.差異の分析:CAGEな隔たりの枠組み
4.戦略オプションの策定:AAA戦略
5.価値の評価:ADDING価値スコアカード

戦略の実行に向けて


ここで挙げる五段階のステップは、まず背景分析に始まり、それから戦略オプションの明確な策定と評価に移ります。

1.業績の評価


そもそもグローバル事業がうまくいっているかどうかを評価することは重要です。(筆者注:これから海外進出を考えている企業にとっても国内でのビジネスを再評価することは、そのビジネスモデルをどの様に展開するか考える上で大事だと思います。)この際に少なくとも、地理的な側面で業績を分析するのが重要だと教授は言います。(ただし、分解する際の切り口は、5章で議論したように集約戦略と同じぐらいさまざまです。)

状況を可視化することで、今後何をすべきかを見極めるきっかけになります。

2.業界と競争力の分析


次に9つの問題(感覚ではなく、データに基づいて回答できる)を以下にあげます。これらの問題の分析にあたっては、各業界独自の観点から分析することと、10年以上などの長い時間枠での変化を見ることが大事なようです。

“クロスボーダーでの業界と競争力の分析に関する九つの問題
1.   上位三社から誤射の売上高が占める比率 本当に上昇しているか
2.   業界首位の企業や、業界内の順位、シェアの変動 誰にでもわかる業界首位や中核企業が存在するか。するなら、その地位にある企業どれほどはがしく入れ替わっているか。
3.   世界総生産に対する国際貿易の割合、総固定資本形成に対する海外直接投資の割合、(たとえばクロスボーダーでの買収・合併に対する)国際間の合弁や戦略的提携の割合 こういった国際統合の標準的な尺度がどうなっているか。
4.   クロスボーダーでの標準化(最もはっきりわかるのは製品である) 本当に進んでいるのか
5.   実質価格の下落 これが生産性向上のノルマにどんな影響を及ぼすか。
6.   業界の収益、特に経済的利益 国ごとに収益性がどれほど異なるか
7.   収益性と規模の関係(あれば) 収益性はグローバル、地域、国の各レベルで、あるいは工場や顧客のレベルで規模に左右されるか。
8.   納入業者、競合他社、協力企業、買い手の間における経済的利益の分配 お金はどこに流れているか
9.   広告・マーケティング、研究開発、労働(更に資本や特化したインプット) これらの支出項目の内どれが自社業界では比較的大きいか。また、その点から見ると自社の業界はどんなタイプの業界に分類できるか。”

3.差異の分析:CAGEな隔たりの枠組み


もともと本書は完全にフラット化していく世界=グローバリゼーションに対抗する考え方として、世界はセミ・グローバリゼーションであると言うことを立脚点としています。国ごとに存在する差異を考える枠組みとしてCAGEが紹介され、その差異を測るために隔たりという尺度を使用しています。



これ等には二つの目的があると教授は言っています。
l  数量的な尺度を導入することで、より客観的な議論を展開する
l  本拠地の国からの隔たりを考慮せず、国を一面的に特徴づけて行う、よくある類の分析を退け、議論に二面的または多面的な要素を加える。

4. 戦略オプションの策定:AAA戦略


国ごとの差異を味方につける戦略として「適応」「集約」「裁定」が紹介されました。これらを適用する手続きの重要な点として、次の三点が挙げられています。

“まず評価を行う段階では選択肢を複数持っておいた方がいい。次に、戦略オプションは虚空から突然出現することは無い。策定し、更に策定の事跡を残すべきである。第三に、検討する戦略オプションの選択肢を改善することに、戦略オプションそのものの評価を改善することと同じだけ気を配る必要がある”

5.価値の評価:ADDING価値スコアカード


教授のもう一つの主張は、グローバル活動の評価には売上高や損益計算書上の利益ではなく「価値」を使うべきだということです。単に売上高だけで海外進出を決める危険性は、前回の投稿でも触れています。前回の投稿で二つの戦略を紹介しましたが、その評価に使ったのがADDING価値スコアカードです。
本書の内容紹介1回目でその抜粋版を紹介しましたが、重要な内容なので全体を掲載します。


ADDING価値スコアカードの応用


内容紹介とADDING価値スコアカードの適応例で七回にわたって投稿してきました。
本としてはグローバルに手広く展開している企業の海外戦略を見直すためのガイドラインとして活用してもらう事を目的としていますが、今後増えるであろう中小規模の海外進出を成功させるための拠り所としても使えると思います。特にCAGE分析とADDING価値スコアカードはユニーク且つ、一般的な市場分析では得られない気づきやリスクを洗い出すツールとして有用だと思います。御社の海外戦略立案・見直しに是非活用いただければと思います。


2013年5月6日月曜日

海外進出が企業にとっての価値を生むのか(1)




今回は、中小規模の企業が海外進出する場合に多く見られるパターンから、ADDING価値スコアカード等を使った分析を行い、進出目標の置き方によって企業にとっての「価値」がどのように変化し得るかを検証してみる事にします。

結論から先に書くと、海外進出はあくまでもアプローチまたは一つの機会であり、価値を生むか否かはその企業の取り組み次第だと私は思います。

日本企業の海外進出パターン


良くみられる進出パターンとして目的別に次のようなものがあります。

a) 新規市場開拓
b) 海外生産拠点の開設
1) 代理店設置
1) 主要取引先の要請
2) 自前拠点の開設
2) 生産のグローバル化

これ等のパターンの内切実なのは、b)-1)主要取引先の要請による海外生産拠点の開設だと思います。このパターンでも進出目標の置き方によって企業が得られる「価値」が大きく変わってきます。

分析の例として、中規模生産財メーカーA社が主要取引先(総売上の20%を占める)の生産海外移管に伴って進出の打診を受けたことを想定してみました。A社が納入している製品の位置づけは下図のようになっており、取引先の意向に沿わないとすぐにも他社製品に切替えられてしまう状況です。

組み立てメーカーとの関係(現状)



主要取引先が海外に生産移管する目的は、新興国向けマーケットを見据えた製造原価の低減であり日本での納入価格より20%程度単価が低くなることが想定されています。取引先のビジネスプランでは、製品の生産量は少なくとも2倍に拡大する方向ですが、進出前の時点ではA社の具体的な納入数量についてはコミットされていません。

ケース1:今まで通りの製品で進出


現時点での納入数量コミットは得ていないものの、長年の付き合いであることから増加分の少なくとも50%は獲得できるとの想定でA社としては、進出する決定を行いました。この場合の決定要素は、売上金額です。進出すれば売上金額が最低限現状と同じレベルは維持できる可能性は残ります。一方進出しなければこの売り上げを失うということは明白です。

この状況でのADDING価値スコアカードは、次のようになります。

ADDING価値スコアカード(今まで通りの製品)
ADDING価値スコアカード(今まで通りの製品)


問題点は、次の通りです。


①   A:販売数量/伸び率の向上は、取引先の製品売上に完全に依存しています。多くの中小規模生産財メーカーにとって、取引先の業績依存は当たり前な事なのかもしれません。しかし、企業経営としてこの状態にずっとし続けることをよしとするのは良い事なのでしょうか?
②   D:コスト削減では、製造原価低減を人件費が低減できることから、+評価しています。しかし原材料の入手、物流費、原材料入手のリードタイムが伸びる事からの資材在庫増等を詳細に検討し評価する必要があります。また、進出先のスタッフで生産することから、品質は低下することが想定されます
③   N:リスクの平準化では、3つの項目が-評価です。一つ目は為替リスク。このブログで何回か取り上げましたが、海外事業の大きなリスクの一つが為替リスクです。サプライチェーンをどう組み立てるかによりますが、必要なリスク軽減措置を取る必要があります。アベノミクスの好影響で過去最高益を出している企業が数多くありますが、ネガティブなインパクトも大きいのが為替リスクです。また、異文化の人たちに技術移転を行うこと、どうやって品質担保をするかもリスクの一つになります。最後に、取引先の業績に完全依存するというのはかなり大きなリスクと評価しました。
④   G:知識(とその他の経営資源、能力)の創造では、異文化での経営を+評価しました。今後何らかの形で海外との関わりが必要な事を考えると、その経験値、人財は大きな価値になります。
⑤   最後に、海外進出とは別の本質的な問題がもう一つあります。供給している製品が、組み立てメーカーとの関係に図示されたような位置づけならば、製品価値への寄与もそれほど高く無いために価格は低く抑えられがちであり、かつ他ベンダーへの代替の可能性が比較的高いと考えられます。従って、同程度の品質であれば値段だけで他ベンダーに変更されるリスクは非常に高いと思われます。

こうやって様々な観点から分析を行う事で、海外進出が企業にとって本当に「価値」のあることなのかを明確にすることが出来ます。この例だと、単に取引先の海外移転に伴って海外に生産拠点を作る事には様々なリスクが含まれていることが浮き彫りになったと思います。

ここに挙げたような事例だと、リスクがあるので進出しないことにすると確実に売上減につながるのも事実です。では、どうするか?少し中期的な取り組みにはなりますが、短期的な売り上げは確保しつつ、中期的な変革も狙う戦略として次のようなケースを想定しました。

ケース2:海外進出をきっかけに取引先との関係を変える


下図にあるように、縦軸は組み立てメーカーの製品が持っている価値に占める部材の価値であり、①これを上げる≒支払意志額を向上することに繋がります。
横軸は、他の部材と置き換えがしやすいか否かが尺度であり、②これを上げることが取引先との関係の安定性確保につながります。

組み立てメーカーとの関係(方向性)
組み立てメーカーとの関係(方向性)


右上に行けばいくほど、取引先との関係及び支払意志額は向上することになり、単なる下請けからビジネスパートナーへ関係が変わっていくことが期待できます。具体的に何をすれば、それぞれの軸で上位に位置づけられることが出来るのかを考えるために、それぞれの要素を分解してみました。
製品価値と代替可能性の主たる要素を分解したのが次の図になります。完成品メーカーにとっての製品価値は、差別化要因である消費者にとっての経験≒使う人の未来・感動・わくわく感になります。その構成要素として、サービス及び機能があります。また、製品が製品として存在する基本的な機能(例えば、車であれば安全に、移動できる)もその構成要素になります。

製品価値と代替可能性の要素分解
製品価値と代替可能性の要素分解


代替可能性の主要素は、組み立てメーカーの生産性を向上させることに寄与しているか、単純に提供できるベンダーの数が多いのか、機能と価格比である費用対効果が高いかの三つになります。

この分析を踏まえて、A社では海外進出にあたり次の目標を掲げ、具体化施策を実施することにしました。

戦略目標と具体化施策
戦略目標と具体化施策


このケースでのADDING価値スコアカードは次のようになります。

ADDING価値スコアカード(目指す姿)
ADDING価値スコアカード(目指す姿)


ケース1に比べて、企業にとっての価値が格段に増えています。もちろん、単純に進出する事に必要な作業量に比べてはるかに多くの事をこなす必要は出てきます。そもそも論として取引先との関係性を変えるのは、海外進出とは関係なく取り組むべき施策かもしれません。

ただ、中規模の企業にとって立場の差が無いと困難な垂直統合の機会は国内より日本メーカーへの品質およびモノづくりへのリスペクトがある海外の方が得やすいこと、原価低減に人件費の差という「裁定」戦略を使うには海外進出が必要であることも事実だと思います。

今回は、進出目標の置き方により企業が得られる価値に違いが出るかを、取引先の生産海外移管に伴う海外生産拠点立上を例として比較してみました。もちろん実際の価値は、実行が伴わないと手中にすることはできません。しかし、最初の目標設定によっては、そもそも得られるかもしれなかった価値に気が付かない場合もあると言う事。目標設定において現状の分析を行う事で、やるべき事が明確になりえると言う事の二点が今日の投稿でお伝えしたかったことです。

戦略目標の設定及びさらに具体的な施策は、企業が置かれている環境、技術と市場での位置づけにより大きく変わると思います。御社の状況で一度分析を行い、現在の海外戦略と比較してみてください。

2013年4月28日日曜日

IBMはなぜ新興国で社員を3倍にしたか - コークの味は国ごとに違うべきかから

+水谷穣
 

前回までで、事業環境の枠組みとしてのCAGE、ADDING価値スコアカード、基本的な戦略として「適応」「集約」「裁定」についての述べている1章から6章までを紹介してきました。今回は、それを自社の戦略に取り入れる際のアプローチを記述している7章の内容を紹介します。

“20世紀終盤の多国籍企業と100年前の国際的企業には共通点がほとんどない。いずれも、1700年代の大貿易会社と大いに異なっている。現在出現しつつあるタイプのビジネス組織、つまりグローバルに統合された企業組織は、今まさに急激な進化を遂げようとしている。 サム・バルサミーノ IBM会長兼最高経営責任者 The Globally integrated Enterprise(2006)”

これは7章の冒頭に引用されている内容です。教授はこの引用を、企業の戦略が市場の拡大としてのグローバライゼーションに加え、生産のグローバライゼーションに注意が向けられ始めている事の証としています。

グローバル戦略の再検討


市場と生産のグローバリゼーション右図は、市場のグローバライゼーションでの戦略的課題とそれに生産のグローバライゼーションが加わってもたらした戦略的課題を比較したものです。この図を見てわかるように、市場のグローバライゼーションが主な戦略の場合には、適応するか集約するかの二元論的選択だったのが、生産のグローバライゼーションも考慮する場合にはAAAトライアングルのなかでどうバランスを取っていくかの選択になってきています。
これは、単に選択肢が増えたと言う事だけではなく、組織運営、配置、企業文化、管理などの様々な分野で選択する必要性が出てきたと言う事でもあります。

次の表は三つのAAA戦略間の違いをまとめたものです。

AAA戦略の間の違い
AAA戦略の間の違い
三つのAの最も本質的な特徴は、国境を越えた事業活動によって複数の要因に基づくプラス面を追及するという点と、それに関連して、それぞれの戦略を実行するうえで最適な組織体系が存在するという事です。2つの戦略≒形態であれば、マトリクス組織等で対応することが可能でが、3つの形態を同時に取ることはありえないということが前提にあります。

結果、企業がグローバル戦略を考えるとき、どのAを重視し、差異を操る戦略を選ぶかを決める必要が出てきます。AAA戦略の活用を考えた時に、組み合わせでレベル0からレベル3までが考えられます。

レベル0:AAAの認識


レベル0は言ってみれば活用するための準備段階です。それぞれのA戦略を理解し、自社が
グローバル戦略のツール(簡易版)
グローバル戦略のツール(簡易版)
追及する全ての戦略目標と、それを達成するためのツール、補助ツールがどの様に活用できるかを検討する事を薦めています。失敗例として挙げているのが、国内でやってきたのと同じやり方で海外でも事業を展開しようと試み、ある程度の適応も必要だと思い知るころには巨額の損失を積み上げていたり、裁定を利用しようというのが海外進出の目的でない限り、裁定機会には早い段階で見向きもしなくなる例です。

本拠地による偏りも多いようです。アメリカ企業は適応を選好することが少なかったり、中国やインドの優良企業は裁定を得意とすることが多いそうです。日本企業の例はここでは挙げられていないが、新興国にまず生産拠点を設置するパターンからいうと裁定を得意としているといえそうです。

教授はAAAトライアングルを使ってのグローバリゼーション・スコアカードを作成することを薦めています。本では金融サービス会社の例が出ています。内容的にあまりピンとこないので、レベル1で紹介する具体的なKPIを使った分析と、いくつかの会社のグローバル戦略変遷を見た方が理解しやすいと思います。

レベル1:一つのA戦略


上に掲載した表「AAA戦略の違い」にみられるようにそれぞれの戦略に多様性があるために、企業はどれを採用するかに優先順位をつける必要があります。教授の分析によると本拠地以外で収益を上げている企業の大半は、三つのA戦略のいずれかを重視することによって成功しているそうです。特にこれから海外進出を行おうとする企業は、特定の戦略に必要となる経営資源や能力を分散させないためにも、AAA戦略のどれかに的を絞るか決める必要があります。的を決める分析の枠組みとしてもAAAトライアングルは活用できます。

その具体的な方法が一つ314ページ~315ページに紹介されています。
その方法とは、業界又は企業がどの分野に資金をつぎ込んでいるかを測定し、それを三つのAによる改善の余地をあらわす代理変数に使う事ができます。宣伝広告費の対売上高費が高い場合には適応、研究開発費が高い場合は集約、そして労働費用が高い場合は(労働の)裁定が重要であると言えるようです。

“広告宣伝費の売上に対する割合と、研究開発費の売上に対する割合は、多国籍企業で最も優れた指標である。広告における規模の経済が基本的には今も現地または地域レベルで追及されているのに対し、研究開発はグローバルな規模または範囲の経済で特徴づけられている。したがって、広告費の売上高に対する割合は、現地の反応を重視する適応と密接に関係があり、研究開発費の売上高に対する割合は、国際的な規模または範囲の経済を重視する集約と密接に関係がある。更に、労働費用の売上高に対する割合は、労働の裁定の見込みに代わるものである。ただし、裁定は単純な労働コストだけでなくもっと広い範囲にわたる国内外の差異を網羅する。たとえば、様々な面で最大のグローバル企業である、とある石油会社は、全世界で事業を展開し、原材料価格の差異を利用している。”

業界全体の支出の大きさ分析例
業界全体の支出の大きさ分析例
中小企業にとって広告宣伝費及び研究開発費は相対的に低いと思われます。ただ、クロスボーダー戦略を考える上でどの側面を優先するかの判断を客観的に行うことが分析の目的であることを考えると、この二つの指標に関しては業界でのリーディング企業がどの状況なのかを分析することで、その業界のビジネスモデルが客観的に評価できると思います。

レベル2:複合AA戦略


「純粋な」A戦略は、明快ではありますが実際にグローバルに展開し、かつ成功している企業では二つのAを追及していることが多いようです。前述したように、従来の市場のグローバリゼーションに焦点を当てる考え方では適応と集約のどちらか一つに戦略の選択は限られていました。現在の環境では、生産のグローバリゼーションも考慮する必要があり、それをモデル化したものがAAAトライアングルです。このトライアングルの三辺に対応するAA戦略は、それぞれのトレードオフの背後にある共通の要素を重視することが従来の考え方との違いになります。適応と集約の場合は類似点、適応と最低の場合は差異または多様性、裁定と集約の場合はクロスボーダー統合がそれにあたります。

また、AA戦略を取ることで選択肢は三通りから六通りになります。AA戦略の野心的な目標をどうやって達成すればよいかを調べるために最先端企業の事例が四つ紹介されています。ここでは、7章のタイトルになっているIBMを紹介します。

“IBMの事例
IBMがこれまで取ってきたのはほとんど適応戦略であり、ターゲットとする国でそれぞれミニIBMを設立して海外市場でサービスを提供してきた。・・・しかし、最近のIBMは国ごとの差異を活用し始めた。裁定(同社のトップはこの言葉を使っていないが)に注目した兆しとして最近最も顕著なのは、賃金の差異を利用して、新興国の社員の三倍以上に増やし(特にインドではこの期間に従業員数が一万人から五万人に増加した)新興国で大幅な拡大を図ったことだ。新しい従業員のほとんどは、IBMグローバル・サービシズ注)というグループ会社に所属している。この会社は急拡大しているが、マージンがIBM関連会社の中では非常に低く、価格引き上げよりもコスト削減という観点で貢献することになっている。したがって、IBMは集約と裁定の戦略を追及している。適応は特に市場に直面した活動では引き続き重要であるが、従来ほどは重視されていない“

筆者注)グローバル・サービス部門は、さらに2つの部門からなる。コンサルティングやシステム・インテグレーション、CRM(顧客関係管理)などのソフト提供、財務、人事業務のアウトソーシングを請け負うIBMグローバル・ビジネス・サービスと、サーバーやストレージなどのインフラを提供するIBMグローバル・テクノロジー・サービスである。(DIAMOND 「日本の電機メーカーも見習いたい!IBMが挑んだビジネスモデルの創造的破壊」より。)にあるようにBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を担当する部隊がこれにあたると思われる。

レベル3:三連単AAA戦略


“最後に、適応、集約、裁定と全ての戦略で競争相手に勝とうとする企業を考えてみよう。この形で成功するのは不可能ではないがまれである。上述の表「AAA戦略の違い」でしめした緊張が少ないか、規模の経済あるいは構造上の優位によって課題を克服できるか、または競争相手が制約を受けている場合にみられることが多い(つまりこうした要素が無いと難しい)”

これを追及した例として医療用画像診断装置メーカーGEヘルスケアが322ページにあげられています。これと併せて同じ業界のビッグスリーのうち最も小さいフィリップス・メディカル・システムズの戦略を評価するうえで売上に対する、広告宣伝費、研究開発費、労働費用をそれぞれ適応、集約、裁定の代理変数に使うAAAトライアングルの適応例を328ページから332ページに紹介しています。

組織の三原則


グローバル戦略の多様性、その中から戦略を選ぶためのツールや具体的な原則を紹介してきました。これを実施する組織を作るための三原則を最後に紹介しています。それぞれの記述内容が限られているため、教授の意図していることが分かりにくいのですが、簡単に紹介します。

協調を広げること


最前線の多国籍企業は、本社による経営資源の配分と国別事業のモニタリングを重視するという従来の協調に加え、国境を越えた協調が進んでおり、組織の壁を乗り越えた協調がよく機能しているそうです。

新しい協調メカニズムを作る事


協調を効率的に拡大するためには、新しい協調メカニズムを開発するのが大きな後押しとなる場合が多いとし、例として、IBMの「案件のハブ」コグニサントの「一案件二責任者」方式GEの「ピッチャー・キャッチャー」コンセプトなどが例として挙げられています。

国境を越えた組織がそれぞれ積極的に協調するために情報ハブを設けたり、案件に関与するそれぞれの組織両方の責任者を明確化する、コミュニケーションの役割分担などを明確にするなどのことと私は理解しました。

検討課題を発展させること


複雑なグローバル企業における最適な組織の作り方を編み出せた人はいないと教授は言います。このため組織運営に於いてある程度の試行錯誤は必要であり、また進化の過程においては力点を適宜変化させる必要がある様です。

今回は、三回にわたって紹介してきた三つの戦略を具体的にどのように組み合わせるかの考え方と事例を紹介しました。基本的な枠組みは、紹介した通りですが実際に企業がどのような組織を作り、どのような戦略を実行するかは一意には決まらないと思われます。ポイントは、ステレオタイプな考えにとらわれず、置かれている環境を客観的に分析し自社にとって有効な戦略を策定し、PDCAサイクルを回し続けることです。

次回は、本書全体のまとめである八章「世界で成功するための5つのステップ」を紹介します。



2013年4月14日日曜日

海外進出を成功させる戦略その3 「裁定」 絶対的な経済価値を生むがリスクもある戦略

+水谷穣


今回は、「裁定」戦略についてです。
裁定戦略は、他の戦略とは次の点が他の戦略と違っています。

l 差異を活用する手段。差異を脅威ではなく、機会ととらえている。
l 規模の経済を追及するのではなく、絶対的な経済性を追求する。

他の戦略と違って直感的にわかり易いですが、一方で様々なリスクも包含しています。以前の投稿で紹介した、為替リスクなどがそれに当たります。絶対的な経済性を追求できる代わりに、大きなリスクを含んでいることがこの戦略の特徴かもしれません。それでは、内容をみていきましょう。

最も古いクロスボーダー戦略


歴史に残る貿易商の大半は、コストや入手可能性が場所によって極端に異なるぜいたく品を取引する事から始めました。例えば、香辛料。ヨーロッパでは当初インドの数百倍の価格で売れたことから、貿易が始まっています。北アメリカには豊富にあって入手が容易な毛皮や魚は大西洋貿易をもたらし、ついでにアメリカ大陸の植民地化につながりました。
このように、貿易は基本的に裁定戦略にそって始められているといえます。

現代では裁定が軽視されている


このような背景があるからか、現代の企業戦略では裁定戦略が軽視される傾向にあると教授は言います。しかし、この戦略がもたらす絶対的な経済規模は非常に大きく、非常に重要な戦略と言えます。

どのくらい軽視されているのか、一方でどんな絶対的経済性をもたらすのかを説明する例としていくつか挙げられた内のひとつとして、ウォルマートの例を紹介します。

ウォルマートの世界戦略を語るときよく取り上げられるのが,海外店舗ネットワークです。少し古い数字ですが(本書の刊行は2009年)、2006年には海外で2,200店舗が展開されていました。これらの店舗からの売り上げは会社全体の五分の一にあたる630億ドル、会社全体の六分の一にあたる33億ドルの営業利益をあげています。

あまり取り上げられていない事実として、ウォルマートが世界各地からの仕入れ品、特に中国からの仕入れに力を入れており2004年には直接180億ドルの商品を仕入れています。この数字には、納入業者が中国から仕入れている金額は含んでいません。

この金額のインパクトは非常に大きく、試算すると30億ドルの費用削減にあたり、ほぼ全海外店舗の営業利益に匹敵する額になります。
更に、教授が行ったウォルマート店舗サンプル調査の結果では、仕入全体のうち、直接・間接を含む中国製品の商品はこの数字の2-3倍に上ると見られています。総合すると中国からの仕入れによる費用削減は、海外店舗の営業利益よりもかなり大きい事がわかります。

5つの思い込み


それでは、なぜ現代の企業戦略上「裁定」が軽視されがちなのでしょう。教授は5つの思い込みとそれに対する反証をあげています。

一つ目の思い込み。後進的だという感覚 ⇔ 反証:ウォルマートの例で現代でも十分効果がある。

二つ目は、競争優位に与える機会は限定的 ⇔ 反証:例えばアメリカと中国の労働コストの差は、急激に縮まっているとはいえ今後数十年は(教授の弁)及ばない。

三つ目は、二つ目と関係しますが裁定による収益拡大は極めて限定的 ⇔ 反証:ウォルマート。もう一つの例としてタタ・コンサルタンシー・サービシーズは売上高成長率で30%超で達成しつつ、投下資本利益率は平均100%を超えている。

四つ目は政治的に危ういこと。

五つ目は経済性だけに議論が集中しがち。他の要素についても視野を広げる必要がある。

裁定の要素には様々なものがある


五つ目の思い込みにあるように、裁定の議論の多くは新興市場の労働集約的な製品またはサービスを先進国で販売する事に集中しています。日本の製造業が製造原価の平均25%をしめる人件費を削減するために、安い労働力をもとめて新興国に工場を建設したがるのはこれにあたります。

しかし、裁定の要素には以前紹介したCAGEすべてに当てはまり、これ等も考慮することが大事だというのが教授の主張です。

【文化的な裁定の例】


フランスのブランド、オートクチュール、香水、ワイン、食品があります。これらは、高級路線のものですが、庶民的な製品やサービスにも適用されておりその一つの例が世界で圧倒的な地位を確立しているアメリカのファーストフードチェーンです。

アメリカのファーストフードチェーンは、1990年代終盤には世界のファーストフード大手30社のうち27社を占め、世界のファーストフード売り上げの60%を占めていました。これらの会社は、食事と共にアメリカらしさの片りんを見せることで、アメリカのポップカルチャーを世界に提供しています。

【制度的な裁定の例】


国ごとの法的、制度的、政治的な差異は、文化的な差異とは別の側面で戦略的な最低の機会を提供します。一番わかり易い例は税制の差異です。

日本でもタックスフリーの香港、シンガポールなどに本社を設置する例がちらほら出てきました。本書では、ルパート・マードックのニューズ・コーポレーションの例を挙げています。同社では主として事業を行っている3か国、イギリス、アメリカ、オーストラリアの法定税率が30%から36%なのに対し、同社が1990年代を通して支払った法人税は10%に満たないそうです。これは、アメリカで買収した組織をケイマン籍の持ち株会社の傘下に置くことで実現しているものです。 

(2013年7月5日追記)

最近では、アップル、アマゾン等の企業が制度的な裁定を利用して課税逃れをしているとの非難が相次いでいます。国にとって国際的な企業を誘致する策として法人税低減があります。日本でもその議論が出ていますが、20%以下になると低税率国とみなされ、逆に多くの税金を払う状況にもなりえるので要注意です。(日経ビジネス:英国の法人税率引き下げが増税につながる?)

【地理的な裁定の例】


航空輸送は、1930年と比較するとその実質コストの低下は90%超になり、同じ期間の他の輸送手段でのコスト低下と比べるとはるかに大きなものになっています。これを地理的な裁定の機会に利用した例として、オランダのアルスメールにある国際生花市場をあげています。この市場では、日々2000万本の花、200万株の植物がセリに掛けられていて、欧米の顧客が、例えばコロンビアから同日に空輸された花を買っています。 

【経済的な裁定の例】


ある意味、裁定戦略はすべて「経済的」といえますが、ここでは他の要素「CAG」から直接得られるのではない経済的な裁定の追及という意味で用いています。関連する要素には、労働・資本コストや業界特有のインプット(例えば知識)のバラつきに基づく差異、補完製品の有無が含まれます。
日本の製造業は新興国に工場を設置することでこの戦略を取っていますが、ベクトルが逆の例が紹介されています。

ブラジルのエンブラエルは短距離ジェット機の世界2大メーカーの一つです。同社の従業員一人あたりのコストは2002年には2万6千ドルで、カナダのモントリオールに本社のあるライバル企業ボンバルディアは6万3千ドルです。エンブラエルがボンバルディアと同じコストをかけていたら、同社の売上高営業利益率は21%から7%に低下し、最終利益は赤字かもしれませんでした。

これ等の例のように裁定の基盤はCAGEそれぞれが成りえます。基盤よりも更に裁定戦略の種類は多く、本書では裁定の考えをさらに拡張すべく幾つかの例を挙げていますので、参照ください。


裁定の分析



これまで紹介してきたように、裁定戦略は多様なので、分析手法も一通りではありません。ADDING価値スコアカードを使って具体的な注意事項を提示しています。本書には全ての要素について記述されていますがそのうちの一部をご紹介します。

【D コストの削減】


最もよく挙げられるのがコスト削減です。上述した様に、日本の製造業が海外生産拠点を設置する理由の多くが安い労働力を確保するためだと思われます。
コストの削減を紹介する理由は、ここには大きなリスクを孕んでいるからです。

例えば、一時的なものでしかない相対的なコストの低さに注目することです。ベトナムで実際起こっていましたが、中国のカントリーリスクへの対応のために製造業が2006年頃一気に進出しました。初期段階では、賃金も低かったのですが多くの企業が一斉に求人をしたために、1年もたたないうちにあっという間に人件費が暴騰してしまいました。

その他の例として、変動する為替レートや生産性への格差への対応に失敗するケースが挙げられます。為替レートの変動リスクに関しては、以前の投稿に記述しているので、こちらもご覧ください。

本では紹介されていませんが、他のリスクとして、新興国の道路、電力、水道、船便の数・方面などサプライチェーン上の制約になりえるものが多々あります。これらの要素が、それぞれ在庫を押し上げる最大の要素であるリードタイムに大きなインパクトを与え、キャッシュフローだけではなく営業利益にも影響を与えることを考えると、見かけの相対的コストの低さにだけ注目するのは大きなリスクを抱えることが理解できると思います。

【N リスクの平準化】


“裁定は市場リスクとそれ以外のリスクの両方を含む、様々なリスクにさらされている・・・利豊(ダウンジャケットの主原料であるダウンをパキスタンから仕入れることで収益を上げていた)のネットワークは、そういうリスクにどうやって対処するかについて様々な切り口を提供している。9月11日のニューヨークテロ事件の後、利豊は納期に敏感な事業について、取引の相手をパキスタンから政治的に安全な国に変更した。それにかかった時間は3週間弱だったといわれている。利豊は、もっと長い時間軸での変化、たとえば為替レート(筆者注:アベノミクスによる為替変動をみるとその変化は短期に急激に発生することが多い。個人的にダメージを受けたのは90年の湾岸戦争ぼっ発)の変動などへの対応策でもこうした大胆な裁定を行っているに違いない。”

裁定の管理


裁定の管理には様々な課題があります。裁定が孕むリスクには政治的リスク・市場リスクなどがあるが、注意すべき点はほかにもある。市場での価格や、コストの差異よりも、裁定戦略がどれだけ持続できるものかという点と、裁定戦略が企業レベルの経営資源、特に経営能力にどれだけ影響されるかという点です。

例えば、タタ・コンサルタンシーのモデルは今やインドのソフトウェア輸出に関わる全ての企業が採用しています。その結果、インドのソフトウェア開発労働コストは急騰しました。具体的に言うと1989年から2006年の間に社員一人あたりの費用は3倍以上になっています。しかし、売上高は4倍になり、その結果社員一人あたりの利益は何倍にもなっています。

これは、業務のオフショア化に加え、この期間に大規模でより複雑なプロジェクト獲得や社員一人あたりの実入りが高いプロジェクトにその対象を移していった結果です。
これは、言うほど簡単な行為ではありません。なぜなら、ITのプロジェクトには常にリスクが内在されており、その複雑性・付加価値性が高まるにつれその内容は高度化・複雑化していきます。また、技術革新が速い業界でもあり、この要素から失敗するリスクも少なくありません。これは何を意味するかというと、プロジェクトの採算割れが発生するリスクを常に抱えていると言う事です。

これに立ち向かうにはまず、経営の強い意志が必要であり、次に継続的かつ組織的なリスク対応能力向上が必要になってきます。
事実、私が勤めていた某IT企業では、経営陣の「リスクのある新しい・未経験領域のプロジェクトは受注するな」という采配のおかげで一時は技術力が高いと評価を得ていたのに、顧客にとって魅力のある提案が全くできない企業にあっという間になってしまいました。

まとめると、裁定戦略は絶対的な経済価値を生み出すもので、その要素は多岐にわたっています。効果的に実践するためには、企業としてのコミットメントが重要になります。しかし、全てにコミットメントするのは難しいため、どの要素を採用するのか、更にいうと他の戦略も含めた取捨選択が必要です。

御社の海外戦略が「裁定」を軸にしたものであれば、その内容を再度分析し、リスクに対してどのような対応策を講じているのか、一度分析してみてはいかがでしょうか。

3回にわたり、クロスボーダーで取りえる3つのAAA戦略「適応」、「集約」、「裁定」の内容を紹介してきました。これらは、単独で採用することも可能ですが、企業が置かれた環境によっては組み合わせることで、更に効果を創出することも可能です。一方で、全てをやり続けるのは複雑化しすぎてしまい、やりきることが難しいため、得策ではありません。次回は、AAA戦略をどの程度組み合わせて使うことが出来るかを論じた七章を紹介します。