2013年3月30日土曜日

海外進出を成功させる戦略その1「適応」コークの味は国ごとに違うべきかから その(2)

+水谷穣


今までの投稿を読まれて、私は海外進出反対派なのかと思われた方がいるかもしれませんが、それは違います。 積極的な賛成派です。

規模を問わず多くの日本企業が海外、特にアジアに根をはって活躍することが日本経済の活性化につながると思っています。

もう一つは、国内の市場環境が大きく変わろうとしているなかで、今までのやり方だけをまもるのではなく、企業を変革させる一つの方策として海外進出を行うことは必要な事でもあると思います。

一方で繰り返し書いているように、海外進出には起業と同じリスクがあります。日本国内の会社の生存率は、いろいろな数字が出ていますが、一番厳しいもので1年目40%、2年目15%とあります。

日本人が日本で起業する分には、ある程度事情も分かっていて、人とのつながりもあり、それなりの目算がある中で活動しているにもかかわらず、この実績なのです。土地勘、人々とのネットワークが無い海外では、このリスクに加えCAGEの差異があるのでそのハードルは、当然高くなります。

だから海外進出を止めなさいと言っているわけではなく、成功するためには情報を可能な限り集め、想定されるリスクへの対応策を考え、早いサイクルでの仮説検証・次のアクション策定を行う仕掛けを運用する必要があると言うのが私が言いたいことです。

経営者自らが進出先に常駐できるのであれば、必要ないかもしれません。それができないのであれば、遠隔地であっても、常に状況を把握できる状態にしておく必要があります。状況の可視化には、あらかじめ想定した「計画」が必要であり、そのためのリスク洗い出しと、対応策がセットになった計画を用意しておく必要があるのです。。

とはいっても、日本にいて一般的に集められる情報は大ざっぱすぎます。進出先に詳しい調査会社に頼むにしても、具体的に欲しい情報を提示しないと、一般的に集められるものと大差ない結果になってしまいます。現地に行って活動してみないと分からないことは沢山あります。ではどうするか?


事前に準備すべき内容


少なくとも下記3点は必要だと思います。


1. 進出を考えている事業での儲け方の本質を次のレベルで整理する

A) どんな顧客に、何を、いつ、いくらで売って、どうやって儲けているのか。
B) 固定客、優良客はどうして自社の商品・サービスを買ってくれているのか、なぜいつも買ってくれるのか。
C) 商品・サービスの供給をどう担保しているのか。

2. 儲けの本質の要素がどれだけ進出先にそろっているのかを検討する

A) 顧客層、提供商品・サービスの供給源・ロジスティックス、必要な仕掛け、支払い意志金額、費用
B) 本拠地での優良客になって貰う要素が、進出先でも同じか
C) 同じ品質の供給源は確保できるのか。日本からの場合、リードタイムが伸びることにどう対応するのか。そのコストで儲け方に影響が出ないか。

3. 儲けの本質の要素がそろっていない場合、どうやって対応するのか?代替案で想定している儲け方が成り立つのか


お気づきだと思いますが、前回紹介した、CAGE分析、ADDING価値スコアカードの構成要素とほぼ同じ内容です。客観的に進出事業の儲け方を整理することで、「なぜ」海外進出が必要なのかの理解を関係者全員が深めることができます。これによって、想定外の事態が起きた時に、失敗しない対応を現場で行なうことができるようになるのです。

「なぜ」取ろうとしてる行動が必要なのか、実行チーム全員が共有するアプローチは英国海兵隊の経験から導かれたもので、別途ご紹介します。興味のある方はこちらの本を読んでみてください。「英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方」

さて、前置きが長くなりましたが今回は「コークの味は国ごとに違うべきか」の2部 「国ごとの違いを成功につなぐ」です。基本的な戦略として3つのA、適応(Adaptation)、集約(Aggregation)、裁定(Arbitrage)からなるAAA戦略が紹介されています。



国境を超えるためのビジネス戦略その1「適応:Adaptation」とは



この章のタイトルになっているのが、「インドのマクドナルドには羊バーガーがある」です。適応には様々なツール(アプローチ)があり、グローバルに展開している大手家電10社を含んだ種々の企業の例が提示されています。

極端な現地化と極端な標準化の間には、適応のツール(および補助ツールがたくさんあります。その基本は「多様化」です。そして多様化による弊害を限定するための「絞り込み」。企業内部の負担を軽減するために取る「外部化」。多様化のコストを減せるように行う「設計」。適応の効率を高めることを目的とした「イノベーション」。これらをここではツールと呼んでいます。下はそれを図式化したものです。(P179 図4-2適応のためのツール)


適応のためのツール
適応のためのツール


モノやサービスを買う購買行動のステップやパターンは国を超えて同じだとしても、最終的に買うと決める引き金になる感情の動きは好みに左右されます。

好みを形成している背景が国ごとに違うので、その違いに対応しないと商売にならないということが多様化が必要な理由です。適応自体は目新しいものではありません。

目新しいのは、「ここに挙げたツールを複数組み合わせることで、具体的な指針として提示することができる。」というのが教授の主張であり、話べたな日本企業マネジメントにはその内容を異文化の人々に伝えるにあたりハードルを下げてくれるものかもしれません。

更に、これ等のツールには補助ツールがあります。適応戦略には選択肢がたくさんあるという事ですね。それぞれについて、事例を示しながら解説してあります。P183 表4-2 適応のためのツールと補助ツール


適応のためのツールと補助ツール
適応のためのツールと補助ツール


適応のツールの中で、イノベーションが一番わかりづらいと思うので理解を深めるために、その補助ツール:現地化の一部を引用します。
”インド市場の価格弾性力が極めて高いことに対応するイノベーションも実施された、例を挙げると、単位価格が低いパッケージ(袋売りのシャンプーなど)、生産コスト削減のための現地化、棒状石鹸の片側をプラスチックでコーティングする(石鹸を長持ちさせるため)先進技術の利用などがその例である。”

この文脈からすると、進出先のニーズがわかりさえすれば、日本製造業にとってはお得意の分野だと思われます。この中で製造の現地化について面白いアイデアが紹介されていたので、これもそのまま引用します。
”ボストン・コンサルティング・グループは、プロセスの側に着目した面白いやり方を提唱している。製造過程を新興市場にうまく適応させたかったら使い捨て工場を建てればいいというのだ。使い捨て工場とは、短期的に大量生産を行うためだけに作られた労働集約的な工場だ。

既に実施されている企業もあるかもしれませんが、初期投資コストを抑えられますし、立上げのリードタイム短縮、撤退障壁が小さいという利点があります。撤退障壁が小さいのは、状況が安定しない、発展途上国では万が一のダメージの拡大を抑えるために重要なことだと思います。

次に、適応戦略をとる際の注意点です。
”ここまでで、適応によって得られる恩恵を広範囲にわたって説明したが、適応がADDING価値スコアカードの複数の要素に悪影響を及ぼすこともあるのを指摘しておく。規模の経済、特に量とコストのリンクに関する点が、特にこの文脈では重要である。適応は実質的にグローバルな規模の経済を犠牲にするためだ。(それがこの戦略の限界でもある)。市場規模又は会社市場シェアが限定的であり、その市場に適応するためにかかる固定費が大きい場合、そうした犠牲は特に大きな痛手となる。”
ここに引用したように、適応戦略には限界があり、そのために集約または裁定と組み合わせて使う必要がある様です。



適応の管理



このセクションでは、適応戦略の効果を最大限に発揮する組織についてディスカッションをしています。結論からいうと、戦略を追及するあまりに起こる過剰適応や国ごとの差異を過小評価することで起こる適応不足を避けるために必要なのは、企業グループ内でグローバルな発想を持つことが大事だということです。

どうやってグローバルな発想を組織に根付かせるかという議論は、日本でも盛んに行われています。結局のところ、適応能力に秀でた人間を採用し、色々な場面で経験を積んでもらう仕掛けをつくる事しかないのではないかというのが、教授の主張であり私も同意見です。

このブログを書き始めてから、色々な方々と日本企業の海外進出について話をする機会を持ちました。大々的に調査をしたわけではなく、断片的な印象なのかもしれませんが、社長の決断だけで海外進出を決めている企業が多いと思います。

社長の決断の背後に、冒頭に挙げたような客観的な分析、情報収集が伴っていれば問題は無いのですが、そうではなく何となくのイメージあるいは勢いだけの決断が多いようです。

サッカー日本代表の遠藤選手は「プレイでダッシュしない」ことをモットーとしているそうです。ダッシュしないために、淡々とやるべき事をやる。この姿勢が経営にも必要なのだと、自戒を込めて私は思います。(それでもPK外してしまいましたね。因みに日本代表として8回目のPKで初めての失敗だそうです。こちらの投稿からの情報です)→
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130327-00024092/

進出済みの企業も、リスク管理の観点で今一度自社のやり方を見直されては如何でしょうか。この本で紹介されている戦略の内容を自社に当てはめて検討してみることで、成功への確度が確実に上がると思います。

集約、裁定については次回以降に投稿します。
今回の内容について、コメントご意見頂けると嬉しいです。

2013年3月26日火曜日

「コークの味は国ごとに違うべきか」(1):海外進出がなぜ必要か

+水谷穣

前表紙
既にいろいろな方々から紹介されている本です。このブログでも2回紹介しました。海外進出に必要なことを考える上での具体的な手法を紹介している本なので、第一回投稿で予告した「そもそも自社にとって海外展開がなぜ必要なのか?」を明確にするステップとして改めて紹介させてもらいます。紹介する量が多いので、複数回に分けて投稿する予定です。

この本のメッセージ

  • セミグローバルな環境:国境を跨いだ環境には、共通部分と違う部分が存在している
  •  具体的にどうなっているのか明らかにするには国+業界単位での分析が必要。環境分析は、CAGE(後述)の4つの切り口で行う必要がある。
  •  セミグローバルな環境であることを前提にし、6要素からなるADDING価値スコアカード(後述)を作成することで、「自社にとってなぜ海外展開が必要か?」を客観的に把握することが必要。
  •  把握した価値を実現する戦略としては3つ。 1)適応、2)集約 3)裁定 これ等の戦略から、自社の比較優位となる基盤としてどれか一つを選択する。
  •  3つの戦略全てを実施することは、複雑さが増しやりきる事に大きな困難が伴うため得策ではない。多くても2つの複合形にとどめる。
  • 本書は、基本的には既に海外展開をある程度進めているが、期待通りの成果が生み出せていない企業向けに書かれている。

セミグローバルな環境


12章ではウォルマート、コカ・コーラなどの分析内容がしめされています。クロスボーダーでのビジネスを、全世界同じ手法・アプローチが通用する前提に立って行う危険性について説いています。本国でうまくいったやり方をそのまま海外で行っても結果は出ないこと2つの事例から提示しています。

その一つとして、ウォルマートの業績は本拠地からの距離に比例して悪くなるとの分析結果が2P63に紹介されています。ここでは、物理的な距離の差に加えて下記に紹介しているCAGEの分析も加えています。
余談ですが、私の独自分析では日本企業の多くが国内利益に依存している結果が出ています。これは、日本の製造業の海外での収益率が低いためです。この状況は、製品を商品として売る仕掛け作りが特に不得手な日本企業だけの状況なのかと思っていました。しかし、仕掛け作りが得意なはずの米国企業ウォルマートでも本国との総合的な差異がある場所では業績が芳しくないという事実を考えると、仕掛けを造っただけでは不十分で更に国ごとの差異に対応する必要があると言えます。

下のグラフは、上述した日本企業の分析です。横軸が日本国内売り上げのグローバルな売り上げに対する比率、縦軸が利益の貢献度で1を超えると海外収益の貢献度が国内のそれを上回っている事になります。多くの企業が利益貢献度1以下、売上比率50%以上なのが見て取れます。シャープの利益貢献度が3と高いのは、国内の営業利益が0.6%と低いためであり、決してクロスボーダーでの業績が良いわけではありません。

日本の製造業海外利益貢献度分析
日本の製造業 海外利益貢献度分析


このグラフから国内外の名だたる企業群でも、海外事業で収益を上げることが難しい事が認識できると思います。

CAGE差異分析の手法


上述の地理的な違い:Geographical以外に、文化的な隔たり:Culture、制度的な隔たり:Administrative、経済的な隔たり:Economicの4つの頭文字をとったのがCAGEの枠組みです。P73 表2-1

この分析を行う際には、業種レベルで行う事を著者は勧めています。何故なら、業種によりそれぞれの隔たりから受ける影響力に対する感応度が違うからです。


業種レベルでのCAGEの枠組み
業種レベルでのCAGEの枠組み:感応度係数(カッコ内は事例)



更に参入者としての負荷が、それぞれの差異によって生み出されるかを分析することで、客観的に海外市場での自分たちのボジショニング、補正され市場規模、それぞれの市場の共通点を把握することができるようになります。P95に業種レベルでの分析例が提示されています。

業種共通なものの例として「社会的なつながり、ネットワークの不足」が挙げられています。最初の投稿にも書きましたが、海外進出≒事情が分からない場所での起業という見方をすると、かならず直面する差異です。余談ですが、日本企業がとりがちな解決方法として、現地の事情をよく知っている(と思われる)人間を採用するか顧問として迎え入れる事をします。これが原因で大きな被害をこうむった例は、枚挙にいとまがありません。基盤がある程度できている日本と違って、海外進出時には個人に依存した方策はリスク対応にほとんどならない事を認識すべきです。

日本企業に特有の追加すべき点


この部分は、私見です。
海外拠点で活動されている方々とお話をしていると、日本は独特の文化を持っていると皆さんよく仰います。ところが、その独特な文化から生み出された知見を相手に伝える仕掛けを、海外展開する際に会社として用意している企業は、経験から申し上げるとほとんどありません。駐在員として派遣された個人の能力に依存しているのが一般的です。特別にコミュニケーション能力に秀でた方以外は、会社としてやるべきことが伝わらないと悩みます。そして、自分が期待した行動様式を取らない理由を進出先の現地スタッフが無能であるからと決めつけてしまう。これでは、組織として機能せず業績が良くならないのも当然の結果です。

欧米の文化では、コミュニケーションの責任は発信側にあると言われています。感覚的には、アジア圏でも同様だと思います。またアメリカでは、移民を大量に受け入れているために、様々な文化を持った人々が会社にいることが普通になっています。そのために、ある程度以上の規模の会社では、業務を標準化しそれをマニュアルとして記述することで、組織を運営する仕組みを持つ必要が国内でも生まれてきます。従って海外に展開する際にも、この仕組みをもっていく事は彼らにとって当たり前のことです。

一方日本では、コミュニケーションの責任は受信側にあります。このために、日本企業の管理職は、部下に対して5W1Hを踏まえて明確に自分が思っていることを伝えることが上手でない人が大多数だと思います。元々母国語でさえ難しい事を外国語で行った結果が良くないのは当然のことです。この状況に対応するためには、事業展開を行うのに必要な最低限の仕掛けを用意する必要があると思います。ここでいう仕掛けは、必ずしもITシステムのことではなく、ビジネスを成功させるうえで自社にとってはどうしても必要なもの全般を言っています。

具体的な仕掛けの内容は企業ごとに違いますが、共通して不足しているものについては別途投稿の予定なので、今回は割愛します。基本的なスタンスとして、ただでさえリスクが大きい海外進出を成功させるためには、CAGEの差異からくる1)リスクを明確化し 2)その対応策を事前に準備することが重要です。加えて、日本企業が海外展開を成功させるためには、背景の違う人々に、「何を」「なぜ」「いつまでに」「どうやって」「誰が」やってもらいたいかを伝える仕掛けを準備することが特に重要です。

ADDING価値スコアカード


3章では冒頭でふれた「なぜ海外展開・グローバル化が必要なのか?」を明らかにする手法を紹介しています。
結論から言うと、厳密な分析を経て6つの切り口での価値創造がその企業にとって見込めると判断できるなら、この企業にとって海外展開は必要という事になります。

Adding volume or growth;販売数量の増加または伸び率の向上を実現できるか
Decreasing cost;費用の削減が達成できるか
Differentiating or increasing willingness-to-pay;差別化または顧客の購買意思価格をあげることができるか
Improving industry attractiveness or bargaining power;業界としてのマージンまたは価格交渉力を上げることができるか
Normalizing (or optimizing) risk;リスクを平準化(または最適化)できるか
Generating knowledge (and other resources and capabilities):知識(その他のリソース、能力)を作り出すことができるか

6つの要素それぞれに、次のような分析を加えます。P135にADDING価値スコアカードの応用としてまとめられている表の抜粋をご覧下さい。

ADDING価値スコアカードの応用(抜粋)


詳細な説明の例として、「規模又は範囲の経済の強さを測定する:P132」を抜粋します

明らかに、規模または範囲の経済がどこにあってどれだけの効力を持つかは非常に重要である。1990年代後半に、家電大手のワールプール(第四章参照)は世界中で提供していた商品の品数を半分に減らそうとしたが、すぐに撤回した。家電業界の規模の経済が限定的であることを考えると、この戦略によって削減できるコストは売上高の二%にすぎず、戦略の実行に当たり、隔たりという障害の乗り越えるには十分ではなかったからだ。対照的に自動車メーカーの商品の品数を減らすという戦略が成功してきたのは、ワールプールが模倣しようとした自動車産業界の規模に対する感応度が家電業界よりもずっと高いためであった。

ここに記述されているように、差異を乗り越える方策を考えるということは、自らのビジネスモデル=儲け方のポイントがどこにあるかを再認識することでもあります。この作業を通して、国内のビジネスを見直すことも「なぜ海外進出が必用か?」を明確にする大事なステップの一つです。

海外の事業は、物理的に離れていることもあり現場の皮膚感覚を持つことがかなり難しいと進出された企業の方々は言われています。これを補完するための可視化ツールを用意する事は必要ではあります。それ以前に、自社のビジネスモデルがCAGEの差異の中で効果を出すためのフレームワーク作りが重要になります。

次回は、2部に書かれている差異を乗り越えて成功するための戦略についてご紹介します。

2013年3月22日金曜日

駐在員の所得税課税対象:フリンジベネフィットについて

+Global Leavolution Partners LLC

先日の投稿の話を、海外駐在経験のある長くお付き合い頂いている先輩に話をしたところ、「日本払給与も対象になるよね」というフィードバックを頂きました。今日は、引き続き生活面の投稿です

日本払の給与


そうなんです、各国の税務当局も税収確保に一生懸命なのか、多くの国で自国が居住地の場合全世界での収入を対象にその国での所得税を課税します。かつ、その運用が非常に厳密になっています。英国では随分前ですが、90年代前半に大手企業を中心に税務調査が大々的に入り、色々な企業がそのターゲットにされていました。発覚した場合は、長い期間遡及され、かつ非常に高率な利子が課せられますので、最初からちゃんと申告していた方がリスクは少ないと思います。日本の場合国税の遡及期間は7年です。諸外国も同じような制度だと記憶しています。正確なことはその国の税法に詳しい税理士、会計士にお問い合わせください。

どういう手立てか私もよくわかりませんが、意外と発覚してしまうようです。結構な数の企業で税務署に指摘され、大騒ぎになっていました。

日本払の給与としてよく税務署に指摘されるケースは、
  1. 日本での住宅ローンの支払い等用に、日本の非居住者口座に振り込まれている
  2. 単身赴任の場合に、家族分として日本に振り込まれている
因みに、183日ルールというものがあって、183日を超えた場合に居住者とみなされるのが国際的なルールの様です。駐在ではないのですが、プロジェクトでその国に182日を超えて滞在する場合、所得税の対象とパーマネント・エスタブリッシュメント(PE)の認定をされることがあるので、要注意です。ネットで調べると中国の件がよく出てきますが、日本を含めてほかの国でも同じルールはあります。

色々あるベネフィット


その他日本の感覚では、それベネフィットなの?と思ってしまいますが英国でよく指摘されたと聞いたものをリストアップします。門前の小僧的な知識なので、これも税理士さんに確認してください。

  • 社宅:代表者のご自宅は、特に開発途上国だとお客様の接待用にと大きな家を用意するケースがあると思います。賃貸の場合日本でも課税されるので、あまり問題ないと思うのですが、会社で家、コンドミニアム、フラットなどを購入していた場合が要注意です。
  • 車、マイレージ(燃料代の代わりに単位距離当たり定額で支払われる経費)
  • 教育手当
  • その他 英国の例をググったら出てきたので詳細はこちらのリンクをご覧ください

経営者としては、海外進出を成功させるためにも駐在の方にはできるだけやり易い環境をと思うのが当然のことだと思います。ただ、日本と考え方が違うために思わぬコストになるケースが多々あるので、ご注意ください。

2013年3月19日火曜日

海外事業環境の違い:駐在員の生活にインパクトを与える3つの違い



昨日はまたえらいドン吹きでしたね。ここ数年風の吹き方が尋常じゃなくなっていると思っていましたが、今年の風はさらに強力になっている気がします。やはり温暖化の影響なんでしょうか。海上保安庁の警報メールがバンバン飛んできて少しうるさいくらいでした。海上では皆さん大変な思いをしていたんでしょね。何事もなければよかったのですが。

このブログに「いいね!」して下さった皆様、ありがとうございます!
週末ブログのレイアウトを変更するときにふっと見て7つもついていたので、ジワっとうれしかったです。

今日は、私がロンドン駐在になった比較的初期に遭遇した、日本で当たり前だと思っていた事との違いについてです。過去2回わりと肩ひじ張った内容だったので、ちょっと息を抜いた感じで生活面の話題です。

日照時間の短さに異国を実感


私が赴任をしたのは、115日のことでした。Heathrow空港についたのが16時過ぎだったと記憶しています。日本でも冬のことなので、そろそろ暗くなる時間帯なのですが、すでに真っ暗。そこから、リムジンという名の白タクに乗って既に到着していた同僚たちの待つアパートに向かいました。東北大震災直後の停電時期に、皆さん街が暗いと嘆かれていましたが、ロンドンの夜はオレンジ色の街灯とも相まって、薄暗―い街だなと言うのが印象でした。郊外に向かっていたので、そのせいかと思ったのですが後日繁華街に出た時の印象も随分暗いなと思いました。逆に日本の都市が明るすぎるのかもしれません。
翌朝7時過ぎに起床したのですが、まだまだ真っ暗で結局出勤して作業場所に到着した9時位にようやく明るくなってきました。緯度が高いため(日本で言うと樺太の真ん中くらい)夏と冬の日照時間の差が大きいと聞いていましたが、これほどまでとは想像がつかず、街並みの違いより、日照時間の違いの方に「外国に来たんだなぁ」と実感したのを今でも覚えています。

一方、春から夏にかけては日に日に日照時間が長くなっていくのが分かるほどです。夏至の頃には、ロンドン近郊で夜10時半くらいまでは明るくなります。なので、夏の期間はまだ明るいと思って仕事していてふと時計を見ると20時を過ぎていたりしたことが多々ありました。体調に影響のある方もいるのかもしれません。

日照時間とは全然関係ないのですが、駐在期間を短縮して帰国する方の多くに奥様が精神的に参ってしまわれた方々がいました。ここまで気を配るのは難しいのですが、誰を派遣するか決める際には本人だけではなく、ご家族の方の適性も考慮に入れておいた方がいいかもしれません。

銀行口座が開けない!


赴任時期が急きょ決まったこともあり11月に入国した時は、大きな声で言えないのですが労働許可証申請中のステータスでした。そのために、英国法人からレターを出してもらったりしながらも入国できなかったらどうしようと、パスポートコントロールでは結構ドキドキモノでした。後年タイに赴任した時は、1週間程度でビザ取得できたので、当時の英国が特殊だったのかもしれません。いずれにしても、ビザ取得状況に関しては早めに情報収集されることをお勧めします。

次に遭遇したのが、銀行口座開設の難しさでした。小学生の時に、100円握りしめて口座を開設しに行った記憶があったので、銀行口座を開くのがこんなに難しくかつ23か月もかかるものだとは想像もつかないことでした。当初は英国には6か月の短期滞在の予定だったこともあり、申し込みをしたのが4月でした。銀行口座を開けたのは6月くらいだったと記憶しています。
その間どうしていたかというと、現金でもらったり、家賃などの支払い分をチェックでもらったり、日本の口座に振り込んでもらったりしていました。日本の口座から引き出すときは、為替手数料を支払いながらATMからクレジットカードを使っておろしたりしていました。今や皆さん海外旅行に頻繁に行かれてご存知かもしれませんが、私の知っている限り日本以外のATMは24時間使えるものが必ず街のどこかにあるのでこれは便利でした。日本もコンビニを含めれば24時間おろせるようになりましたが、基本的には自分の口座から引き出すにも手数料がかかります。英国の銀行は個人口座からの引き出しについては手数料かかりませんでした。

当時と違って大抵のことはカードで済むようになってきました。なので、日本の口座から引き落とすクレジットカードを作ることは海外駐在の場合必須なのですが、更に家賃などの小規模な支払いに関して、チェックなどしか受け入れない商習慣があるかどうかも事前に調べておいた方がいい項目だと思います。チェックがいる場合には、現地での銀行口座開設が必須になります。

割高な所得税率・社会保険と所得に対する考え方の違い


最初のブログでも書きましたが、英国の所得税率は累進課税と言いながら2段階でした。その階段が年収で200万円程度に設定されているため、日本のサラリーマンの給与レンジだと大きな影響を受けます。これを回避するために、日本での税引き後の金額を支給するスキームにされている会社が多いと思います。給料をもらっている側からすれば、当然のように思えますが経営の立場から言うと、大きな費用負担が発生する事になります。

イメージと計算例は下記の様になります。この計算例だと家賃を負担した場合の会社負担分は£2,500になっています。計算例は、会社が給与以外の費用は負担しない場合とした場合を併記しています。

グロスアップのイメージ
グロスアップのイメー
グロスアップ計算
グロスアップ計算例


各国の税法で税率スキームと所得に加算する費用の対象が違うので、詳細は進出先の会計事務所に確認してください。グロスアップを行う場合、通常の給与計算と違う処理が入るので、その分だけでも大手の会計監査事務所に依頼するのをお勧めします
この投稿では、英国の例を挙げています。旧英国連邦に属していた国々は、制度設計を英国を手本にしていので、共通点は多い事を付け加えておきます。

2013年3月16日土曜日

海外展開時のリスク - 為替 -


先日の投稿に、「為替にも注意が必要ですよね」というコメントをFBで頂きました。

「自分でコントロールできない要素だから注意は必要だけど、先ずは自分の努力で何とかなる領域をちゃんとやることがまず大事なのではないかと思います。」とコメントしたのですが、為替の変動は突然かつ大きくやってくることがあり、事業にとって致命的なものになりかねないリスクを海外展開の形態によっては孕んでいることに気が付いたので、今日はこのテーマに関連して書きます。

海外展開の形態


前回の投稿で紹介した「コークの味は、国ごとに違うべきか」に詳しく書かれていますが、大きく分けると生産機能の展開と、販売機能の展開の二つになります。クロスボーダーの戦略には、国境を境とした違いをどの様に扱うかによって3つのパターンがあります。

1.    適応(Adaptation):違いに適応していく。
2.    集約(Aggregation):違いの中でも類似しているものを集約することで差異を部分的に乗り越える
3.    裁定(Arbitrage):差異を利用する

生産機能を展開する場合に良くとられるのが、製造原価を低減させるために人件費の安い国に工場を作ることであり、3番目の裁定にあたります。または、EMSなどに生産を委託することも裁定戦略の一つにあたります。

為替リスクの対応方法


この戦略を取った場合、取引条件により為替のリスクが非常に大きくなります。冒頭にも書いたように、為替変動は時としてものすごい事になるので、リスク対策は十分に行う必要があります。対応方法としてはいくつかあります。

l  建値を日本円にする
l  カバ取引ヘッジ取引:為替予約などを行い、変動リスクに対応

建値を日本円にすることは、取引先が全面的にリスクを負うことになるので、あまり歓迎されないかもしれません。カバー取引、ヘッジ取引は金融商品的なところがあるので、総合商社などでは実際の商取引金額の範囲内で行うルールを作って厳密に運用しています。

ホンダさんでは、次のような対応をしているようです。「ホンダの海外展開の考え方と為替変動への対応


最初に挙げられているのが「市場に近いところで生産する」とあります。大企業なので、生産だけではなく、販売もクロスボーダーになっているからできる対応方法です。内容的には海外展開を始めたばかりの企業にとっても参考になるのではないかと思い、紹介しました。よく読んだら、為替の対応も同じ事書いてありますね。

③、④などは、ホンダさんでも海外展開は起業と同じようにとらえて、そのリスク低減対応をしようとしているからだと思います。

2013年3月14日木曜日

事業の海外展開を成功させるために必要なものを考える(1)


1.始めに

私が英国拠点の立ち上げに最初にかかわったのは、1989年とかなり前になります。かなり前なので、今と状況が違うと言うご指摘もあるとは思います。しかし、2006年にタイでスタートアップしたばかりの海外拠点の営業支援をした経験から言うと、事業を成功させると言う観点ではかなり共通している点もあると考えています。

現在、海外展開を始めようと考えている企業の方々、すでに展開はしたのだけれども思うほど順調ではない方々、順調だけれどももっとよくできないかと考えている方々、それぞれが状況を良くしていくうえでのヒントになる情報を発信できればと思い、このブログを始めました。

ブログタイトルの下にも書きましたが、私と同じく海外拠点の立ち上げにかかわった方は多いと思います。その方々が知恵を出し合うような場になればいいなと思っています。
自分自身の会社立ち上げと時期を同じくして開設しているので、あまり頻繁に更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。

さて、第一回のテーマとして「海外展開を成功させるために必要なものを考える」を取り上げました。

まずブログのタイトルにもなっている、そもそも自社にとって海外展開がなぜ必要なのか?を明確にすることが重要だと思います。これに関しては非常に重いテーマなので、別途投稿したいと考えています。

コークの味は、国ごとに違うべきか」著者:パンカジ・ゲマワット ハーバードビジネススクール教授2009年初刊は、世界の一流企業のグローバル戦略とその成果を分析している本です。この本の冒頭部分に次の内容の記述があります。

世界はフラット化し、国境に意味なんてなくなった。これからは市場もグローバル、生産もグローバルに!そんな「常識」をまるまる信じて大丈夫なのか? 答えはNo。今も国境のあちらとこちらに「違い」は生き残っているのだ。(帯の文章より)

ここで言っているフラット化とは、経済・情報・サービスの提供に関して国境がなくなってきたと言う意味で使っていると思われますが、それ以外の事については明らかにクロスボーダーの環境では「違い」が存在している事を認識することが必要だと言うのがゲマワット教授の主張であり、私も同意見で今日取り上げるテーマです。

日本と海外では違いがあるのは分かっている、そんな当たり前な事を書くな!と言われそうなのですが、意外と多くの企業がそのことに気が付かずに行動を起こしていると思います。

2.日本の事業との根本的な違い

自分なりの結論から先に言いますと、海外進出はすべて「起業」だと言う事です。これが日本で行なってきた事業との根本的な違いです。
進出企業の多くに海外展開は「起業=ベンチャー」だという意識が薄いのではないかと思います。何故なら、海外展開を単に日本でのビジネスの場所が変わるだけと捉えている事が原因と思われる誤りを多くの企業が犯している事実を見ているからです。この根本的な経営環境の違いに対する対応策を用意せずに、表面的な違いにばかり目を奪われていると海外事業の成功はありえません。

私がロンドン駐在となり、イギリス拠点の立ち上げにかかわった当時はEU統合が目前ので、大きな地域経済誕生の期待感が非常に大きい時期でした。経済成長も大きいと予想されていたことから、日本から10社程のSIer(システムインテグレーター:システムのゼネコンの様な業態)が進出を果たしていました。いずれも日本のIT市場ではそれなりの規模の会社であり、その多くは取引先が海外拠点のIT支援を行って欲しいと要請されたのが進出のきっかけであるケースが多かったと記憶しています。進出先はロンドンだけではなく、ヨーロッパの複数都市に及んでいました。ところがこれ等の企業は90年代中盤を待たずして、そのほとんどが拠点閉鎖をし、残された拠点も規模縮小または完全に撤退をしています。

当時のヨーロッパにおける日系企業数は、英国に約2,000社、大陸に約1,000社と言われていました。日本から比べると勿論その絶対数は少ないのですが、競争相手もそれなりに少なく、なによりITサービスの相場が日本では考えられないくらいに高い事(例えば会計機能だけを知っているERPコンサルタントで£1,000/日程度、当時のレートだと125万円)を考えると、クライアントさえ確保できれば、そんなに厳しい経営環境ではありませんでした。

私がかかわっていた事業では2000年代中盤に、ファーム全体がグローバル組織になることから日本法人の支店としての拠点を閉鎖しました。それまでは、幸いなことに現地の営業利益で15%上回る利益を確保できていました。その差はどこから生まれたのでしょう?下図に経営上影響度合いが高いと思われる要素の比較を用意しました。

ITサービスにおける海外事業成功要因比較
ITサービスにおける海外事業成功要因比較


見て頂くと理解いただけると思いますが、日系SIerの多くは固定費が高く、売上単価が低い。かつ小規模な会社が顧客ベースを拡大するために必要な販売チャネルを構築しにくい状況なことが明確です。
少し詳しく分析すると、例えばITビジネスにとって固定費の筆頭である人件費。
住宅家賃がメチャクチャ高く、また、英国の所得税率は累進課税といいながら日本円に換算して年額200万円程度以上は40%と中額所得者からすると目の玉が飛び出る程の高率であるため手取りが一気に半減し、個人的には、大変な思いをした時期もありました。(女房にはいまだにぶつぶつ言われます)しかし経営観点から見ると、ネット保障・各種手当支給の日系SIerに比べると一人当たりの負担額は、税金の負担も含めて半分以下だったと思われます。

私の場合、社長にある意味だまされたという側面もありますが、ベンチャーの経営者となった今考えると起業時に可能な限り固定費を抑えると言う事は当たり前のことだと思います。

次のポイントは、営業の仕組みです。企業にとって売上が上がらない限り、存続はあり得ません。拡大させようと思うのであれば、先が見える収入を確保することが非常に大事なことは、経営者の皆さんであれば常識だと思います。
日本であれば、波はもちろんありますがそれなりの顧客ベースがあるために、何となく売り上げをある程度確保できるというのが海外進出をもくろんでいる企業の大半だと思います。ところが、海外拠点では進出のきっかけになる顧客は別として、地盤が全くない状況なのはベンチャー企業そのものです。

固定費に影響する情報については国により状況は違います。ヨーロッパの様には厳しくない国も多いと思います。対策を立てるには進出先の事情をしっかり把握することは必要です。逆に言うと、これ等のように知っていれば大丈夫な事に関しては会計士、弁護士などの多くの専門家に頼ったり、国によっては書物・インターネットで情報収集したりすることが可能だと思います。とはいっても、海外展開を検討されている企業の多くはここまでの情報収集で手一杯になってしまっているのではないでしょうか。

一方、事業を維持拡大するに十分な顧客基盤が全くない状況は、海外に進出する際には必ず直面する問題です。また、専門家に聞けばすぐ答えてもらえる「知識」ではなく、それぞれの企業が独自に考えて対応すべき「知恵」です。更に海外展開当初は、人数も少なくやらなければいけないことは多い状況なはずです。だとすると、進出先の状況に合わせて修正を加える必要はありますが、「営業プロセス:マーケットから固定・優良顧客を作り出す手順」を進出前から周到に準備することは、海外展開をする際の日本との根本的な違いに対応するために必要なことだと思います。

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