2015年6月16日火曜日

IoT時代にグローバルで儲ける 第二回 儲けるとは?(2)

儲けるとは?(1)では、自己資本の増強を可能な限り早い時間で達成することが「儲ける」の定義としてました。そのためには、単年度のフリーキャッシュフロー(FCF)を増加させるだけではなく、中長期的に収益を増加させるための適切な「投資」も必要だということに触れました。

今回は、FCFを値x時間軸の面積で極大化するための施策の全体像に触れ、その方向性を提示するための分析を行います。


施策の全体像


図1 FCF面積極大化施策全体像
中長期でFCFを極大化するには、前述の営業利益率向上、資産の活用に加えて、収益成長性を担保する施策を実施する必要があります。

日本企業は、自らが努力することによって効果が出る原価や費用を削減することは得意としてきました。
しかし、過去に隆盛を誇りながら衰退していった繊維、家電、電気などの業界動向を見ていると、その原価を低減できることの優位性を背景に値引き競争を仕掛けることで自ら製品価値を下げ、自ら首を絞めていった構図が見受けられます。


この悪循環を断ち切り収益成長性を確保するために必要な施策は、「顧客の納品満足度体験の向上 → 目的:自社ブランドへのロイヤルティーを高め優良顧客を増加させる」ことと「製品・サービスの革新 → 目的:製品の機能ではなく、顧客が求める「価値」を提供する」ことが必要になってきます。


また、海外のオペレーションにおいて、生産性向上活動が日本と同じレベルで実現できているかということも検証が必要になると考えられます。


結論の一部を先に述べてしまいましたが、財務データの分析からこの方向性で良いのか検証してみます。


日本企業の収益構造



グラフ1 日本企業の収益構造タイプ
グラフ1は、一部上場製造業の単体及び連結業績をグラフ化したものです。縦軸が売上総利益率、横軸が売上販管費比率の逆数(企業生産性)になっています。(2014年3月期にもっとも近い財務諸表を基に作成)

売上総利益率が高くて、企業生産性が(相対的に)低い企業群を高付加価値型、逆に売上総利益率が低く、企業生産性が高い企業群を高生産性型と呼んでいますが、右上象限に位置する両方の軸が良い企業は残念ながら、存在していません。

グラフ2 日本企業とAppleの比較
日本企業は、ある意味きれいに収益タイプが分かれているので、右上象限に行くことはどうしてもできないことなのか?という疑問が生じたため、1社だけですが、外国企業(Apple)を同じグラフにプロットしてみると、右上象限に位置しています。

という事は、高付加価値を追求しながら、高生産性を追求することは決して不可能ではないという事になります。





さらに、多くの企業は連結では若干自社単体に比して付加価値が高く、生産性が低い傾向がみられます。

日本企業の国内収益依存


グラフ3 日本企業の海外収益依存度
グラフ3は、縦軸に日本単体の利益が連結利益に占めている割合、横軸に日本での売上が連結売り上げに占める比率をプロットしたグラフです。、海外売上高比率より海外での利益率が高い(海外収益依存)場合、右上象限にプロットされます。

日本企業17社中6社が右上象限にプロットされていますが、赤字の企業は日本単体営業利益率が3%以下であることが理由で右上象限にプロットされているため、健全な姿とは言えません。

進むべき方向性

以上の分析を踏まえると、収益成長性を確保するためには、上述の2つの施策に加え、海外の生産性向上を実行していく必要があると考えられます。従って、方向性としては次の3つになります。



  1. 顧客の納品満足度体験の向上
  2. 製品・サービスの革新
  3. 海外オペレーションの生産性向上

次回からは、それぞれのテーマの内容をもう少し具体化して議論したいと思います。



2015年5月22日金曜日

IoT時代にグローバルで儲ける 第一回 儲けるとは?(1)

前回の投稿から2年近くたってしまいました。
2015年3月に一般社団法人 グローバル教育研究所の勉強会で「グローバルで儲ける」というタイトルで講演をしました。

非常に好評だったので、Internet of Things(モノのインターネット)、Industry4.0などの最近の動きも付け加えた内容にしたものをシリーズでお届けしたいと思います。

目次

»儲けるとは?

»IoT時代にグローバルでけるために

˃分析
˃方向性
˃オムニチャネル
˃グローバルプロダクトマネージャーの設置
˃在庫最適化
˃パイプライン可視化、営業力強化
˃財モデル
˃ITサービスの活用


儲けるとは?



まず、基本的に儲けるということの定義をします。異論もあると思いますが、今回のシリーズでの定義はここに記したものとさせて下さい。

ここでの定義は、自己資本が増加することを「儲かる」としています

このためには単年度のP/L上の収益を増やすだけではなく、収益を源泉としたフリーキャッシュフロー(FC)を増やす必要があります。(図:自己資本の増減とFCの環形 参照)

また、「儲かる」状態を続けていくためには、対象期間でのFCFの総和を極大化させることが重要になります。(図 自己資本増強にはFCF面積極大化が必要参照)

その為には時間軸を取り入れた概念であれる、FCFVMG(Velocity Made Good:方向性と速度を要素としたベクトル)を最大化することが必要になります。

次に、FCFに影響を与える財務的なドライバーが何かを見てみましょう。




この図にあるように、短期的にFCFを良くするためには、設備投資やR&Dへの資本投下を減らすことが手っ取り早い方法だということが分かります。

直感的にご理解いただけると思いますが、これでは長期的に「儲ける」ということにはつながりません。環境変化の激しい現代では、新しい製品及びサービスへの投資をしなければあっという間にビジネスがジリ貧になっていくのは目に見えています。


次回は、長期的に「儲ける」ための施策全体像を提示します。また、日本企業の実態を分析し、より具体的な施策に落とし込むための方向性を提示したいと思います。


2013年7月13日土曜日

海外事業環境:駐在員の生活

+水谷穣 

ここの所少し硬い話題が続いたので、ロンドン駐在時代の経験を踏まえて、駐在員の生活状況をお伝えします。一部最近の情報も付記しました。



1.家賃事情


89年にロンドン駐在を始めた時はNorth Woodというロンドン北西部の郊外にフラットを借りて生活していました。以前もブログに書きましたが、私の場合給与がグロス支給だったため、ロンドンの家賃が高い事には閉口していました。当時は2部屋以上の物件がほとんどで月額700-800ポンドが最低ラインだったと記憶しています。

日本人学校のあるWest Actonに日本企業の駐在員が多く住んでいました。Semi Detachedという2軒が組み合わさった家が駐在員には人気で、月額1,400ポンドがこのエリアでの相場だったと記憶してます。

当時は、インターネットなどという物が無くコミュニティー誌の広告や地元の不動産屋さんが頼りでした。日本の不動産屋もありますが、地元の不動産屋と比べると、若干高めだったと記憶しています。

家内が車の運転が出来ないため、ロンドン市内に引っ越しをしました。この時に日本人向けコミュニティー誌に広告を出していた日本人エージェントにお願いしたのですが、その物件がカウンシルフラット(低所得者用に地方自治体が安く提供するフラット)のまた貸しだった事が後々判明し、Residential Parking Permitを取得できない、当時導入された直後だったPollTaxを払っていないなどのトラブルに見舞われた苦い経験があります。

このようなトラブルに嫌気がさしたので、引っ越しを考えたのですが市内だと家賃は高かった一方で購入価格は日本の感覚からすると安く、ローンの返済額が家賃より安価でした。自腹で払っていた事と、当時はイギリスに骨をうずめるつもりだったので、フラット購入を決意しました。イギリスの不動産屋さんを通してフラットを購入し、帰国時に売却した経験からは、(担当者によるのかもしれませんが)非常にレベルの高いサービスを提供してもらいました。

現状の価格をネットで調べてみると、North Woodの同じような物件で月額£1,200-1,500West ActonSemi Detachedで月額£2,600程度の様です。20年以上も前の話なので当たり前かもしれませんが、随分値上がりしているようです。

ネットで調べていて、非常にショックなことに近辺の現状取引額が売却当時の3倍にもなっていました。帰国が決まった時は、そのまま賃貸に出す事を考えていたのですが、英語で不動産手続きなど私には到底無理だという家内の強固な主張(私に万が一のことがあった時)で、泣く泣く売却をしたのですが今持っていれば一財産になっていたはずです。

教訓:海外資産の運用に関しては女性の意見を聞いてはいけません。


2.Residential Parking Permit


日本では馴染みのないシステムなので、簡単に紹介します。検索してみるとアメリカにも同様なシステムがある様です。内容はというと、地方行政区に一定の金額を収めると許可証が発行され、指定された路上に駐車できる仕掛けです。

私の場合Royal Borough of Kensington and Chelseaという行政区に住んでいましたが、この域内の指定区画であればどこでも駐車が可能なのです。買い物などの時にも使えるので非常に便利でした。駐在当時の金額は年間£70程度でした。現在の金額は車種により変動がありますが£150程度の様です。これも随分値上がりしていますね。

ひじょうに便利なシステムなのですが、リスクもあります。指定区画は公道なので、下水道、各種ケーブルなどの保守、単純に道路保守など様々な理由で道路工事が行われます。前もって工事をする旨の通達が2-3日前に表示されるルールになっています。一度1週間の出張の際、戻ってきたら止めたはずの場所に車が見当たらず盗難にあったのかとびっくり仰天したことがありました。道路も復旧されていたのですぐには分からなかったのですが、警察に通報したところ、出張中に道路工事があり、区内の駐車場に保管されいることが分かり事なきを得ました。


3.医療


外国に居住していると一番心配なのが、医療だと思います。一応ビジネスを英語でできますが、やはり症状などの説明をしたり聞いたりするのはハードルが高かったです。

イギリスの場合、NHS(NationalHealth Service)というものがあります。GP(General Practitioner)という掛りつけ医を通し必要に応じ専門医を紹介してもらいます。まずはGPに登録が必要なのですが、当時は情報もほとんどなく心細いおもいをしました。近所の人に評判などを聞いて決めた記憶があります。こちらも参照下さい。→http://www.petite.co.jp/iNHS.htm

現在はNHS ChoiceというWebサービスがあります。レーティングなども載っているのでかなり選びやすいのではないでしょうか。隔世の感があります。

専門医になかなか持てもらえないなど様々な課題がありますが、子供の医療費は無料です。出産もNHSを選択すると無料で出来ます。娘の出産はNHSで行ないましたが、病院の選択が出来ず(指定される)第二次大戦の映画に出てきそうな、レンガ造りの体育館のような建物でプライバシーもほとんどなく、家内は相当つらい目にあったようでこの話題は我が家ではタブーです。

歯医者も私が滞在当時は、登録制でしたが現在はこの制度は廃止されているそうです。数回診療を受けましたが、手先の器用さは無いものの、非常に丁寧な対応をしてくれました。ハードウェアに関しては、日本の病院の方が進んでいますが、医師を含めた医療スタッフの対応はイギリスの方が「サービス提供」をしている印象が非常に強いです。

その後会社で医療保険に加入したこともあり、日本人のいるクリニックに通っていました。駐在員の生活環境維持という観点からは医療保険加入を検討してみては如何でしょうか。


4.買い物


イギリス大手チェーンの看板
ロンドンでは、日本の食材を含め買い物で苦労したことはありませんでした。ただ、他のヨーロッパ諸国に駐在されている方の話を聞くと、ロンドンが特殊なようです。実際他のヨーロッパ諸国からのロンドンへの出張時には、日本食材を買い出しに行くということをよく耳にしました。

幾つかの小売チェーンがあります。90年代中ごろには、日本食ブームもあり、醤油などの一部食材に関しては英国のスーパーマーケットでも購入することが出来ました。

食料品に関してはネットで検索する限り私の駐在時代とあまり変動が無いように思われます。89年当時は日曜日は休み、土曜日も昼で閉店。平日も18時位には閉店してしまっていました。法律が改正されてからは日本並みの開店時間の様で、ここにも隔世の感があります。

日本食料品店は市内にいくつかあります。食料品に関しては、ほとんど買えないものは無いと思って間違いありません。


5.ゴルフ事情


駐在当初は、誘われても断っていたのですが95年ころからゴルフに嵌りました。市内からでも30分程度の所に幾つもゴルフ場があり、かつ値段も非常に安くできます。

ゴルフ場によっては、年会員メンバーというのがあり当時で£700払えば何ラウンドでもし放題でした。現在は£980だそうです。他のものに比べると値上がり度合いが緩やかですね。

このほかにも、日本と同じような会員権メンバーシップもありますが、メンバーになればグリーンフィーは無料というのが海外のゴルフ場の一般的なスキームの様です。

2013年6月26日水曜日

海外進出のリスクを抑える33の戦略 (4)

+水谷穣 

3回にわたり、海外進出リスクのを抑える22の戦略を紹介してきました。今回は5番目のカテゴリーCAGEへの対応戦略11個を紹介します。

前回までの投稿はこちらをご覧ください。


対応戦略全体をまとめた表を再掲します。

海外進出時主なリスクと対応策
海外進出時主なリスクと対応策

CAGE差異分析はパンカジ教授が提唱している分析手法で、企業が海外進出を行う際に進出先の環境が自国とどの様に違うかの分析を行うためのものです。

Culture文化的差異(隔たり)、
Administrative制度的差異、
Geographical地理的差異、
Economic経済的差異

の四つの切り口から分析を行います。それぞれの切り口での隔たりが大きければ大きいほど、ビジネスリスクが大きいというのが、パンカジ教授の研究で明らかにされています。ここでは、ビジネスリスクの要素としてこの四つを取り上げています。


5.1.1 製品の多様化



このカテゴリーの最初のリスク要素は、文化的な差異です。

1950年代以降繊維をはじめとした様々な品目で日米貿易摩擦が発生しました。日本では貯蓄率が高く消費に向かいにくい事がその原因の一つと言われています。しかし、高度成長期以降は三種の神器と言われた家電製品を始め様々な品物が消費されてきました。

自動車は70年代に二度オイルショックが起こった特殊事情があったにしろ、家電製品の需要は一貫として伸びていた時期であり、米国製品が買われなかった理由は日本の住環境に合った製品が無かったと言う事だと思います。

インターネットの普及で世界はフラット化してきたと言われています。それでは、現代では文化的な違いが以前として製品の売れ行きに影響があるのでしょうか?


先日の投稿で紹介した「日本のアレは世界で売れんのか?」という番組で、たらこスパとナポリタン、カレーパンとカレーうどんがそれぞれイタリアとインドで売れるのかという実験を行っていました。それぞれが売れてはいたのですが、やはりそれぞれの国での嗜好に、より適応させた商品の方が相対的に売れていました。この結果を見ると、やはり文化的な違いへの「適応」は必要だと言う事が理解できると思います。

この「適応」戦略の四つの要素の内の一つが製品の多様化になります。これは基本性能は維持したまま、その国の製品に対する評価基準の部分を変更しより売れやすくすることを目的としています。

この戦略のデメリットは、市場の規模にもよりますが製品を多様化することで規模のメリットを追求できにくくなることにあります。また、バリエーションが増えることで偏在庫、在庫過多など在庫効率を悪くするデメリットもあります。


5.1.2 プロトコル見直し



BtoBでの顧客ステータスの階段
この図はBtoBでのビジネスに於いて、その顧客がどのような階段を経て優良顧客(長期間かつ売り上げ規模の大きい顧客)になるかを図式化したものです。

それぞれのステータスから次のステータスに行くには、必ず働きかけが必要です。例えば市場からリードに移るためには、自社製品の存在を知ってもらう必要があります。店頭で行うのか、広告で行うのか、インターネットを通して行うのか、チャネルの違いはありますが、働きかけの本質は情報提供です。

BtoCのビジネスにおいても同じことが言えます。AIDMAと言われるように、購買を決意するためにはA:注意をひき、I:興味を持ってもらい、D:欲しいという欲求を持ってもらい、M:記憶してもらい、A:行動してもらうステップがあります。このそれぞれのステップから次のステップに移るためには働きかけが必要です。

BtoBにおいても、BtoCに於いてもこの購買行動のステップは国境を越えて同じだと言われていますが、「何を」きっかけに次のステップに行くかに文化的な差異があります。従って、働きかけの本質である情報提供を行う際に、その文化に適した方法およびメッセージを伝える必要があります。これがプロトコルの見直しの内容です。


5.1.3 絞り込み(製品、地域、セグメント)



5.1.1「適応」戦略の一つとしての製品の多様化を上げました。多様化することのデメリットは、上述した様に規模の経済を追求しにくい事にあります。絞り込み戦略は、文化的な差異に対応しつつ規模のメリットを追求することを目的としています。

製品で絞る場合には、多様化しないで通用する文化へしか進出しないということになります。地域、セグメントも絞り込みの範囲が違うだけで、基本的な考え方は同じです。

一方一つの国だけでは規模のメリットが追及できない場合、「集約」戦略を取ることも考えられます。この場合には、製品をその文化圏に一旦「適応」させ、同じ仕様で受け入れられる文化圏/国をまたがった地域に展開する事になります。複数の国に進出することが前提となるので、中小企業にはハードルが高いかもしれません。


5.1.4 設計:多様化のコストを減らす



この戦略も製品の多様化戦略のデメリットである、規模の経済を追求しにくいことへの対応を目的としています。規模の経済を追及すると言う事は、売上原価に占める固定費の比率を下げることを設計または、生産技術で追及するのがこの戦略です。

具体的には、多様化する製品の基本的な構造、機能等をプラットフォーム化し統一したり、若干形状が違う金型を汎用化する等の取り組みになります。


5.2.1 プロフェッショナルサービスの活用



CAGEカテゴリーの二番目の要素は、A:制度的な差異です。これは、資本構成(独資が許されているか否か)、税法(法人税、所得税、消費税等)、商習慣、商法、関税、営業許可、各種規制(安全基準)などの制度の違いによるリスクです。このリスクへの対応は最新の知識を得られるかによることから、その情報に精通したプロフェッショナル(会計士、税理士、弁護士)を活用するのがこの戦略の内容です。


5.2.2 現地化、アライアンス



この、戦略は海外企業の直接投資で独資が認められていない場合への対応策になります。


5.3.1 状況の可視化



3つ目の要素は、地理的な差異(隔たり)です。この要素には、コミュニケーションを取る際に障壁となる時差、コミュニケーション円滑化に欠かせない人の行き来を阻む要素となる物理的な距離、その国の文化・人々の気質を形成する基本となる気候や季節の移り変わりの違いなどが含まれます。

時差や物理的な距離は、どこでもドアが発明されない限りなくすことはできません。次善の策として、これ等の条件によって引き起こされかつビジネス遂行上非常に重要なコミュニケーションを効果的に行う事をこの戦略では目的としています。

コミュニケーションを効果的に行うには、まず相手の状態がどの様になっているかを知る必要があります。これを遠隔地で且つ文化・言語が違う場所同士で行うには、お互いの共通言語を持つ必要があります。ここでいう共通言語とは、数字の内容、発生タイミング、作業・活動の内容、その品質、レベル感を定義することを含みます。

数字内容の定義例として、売上は、正価なのかディスカウントを行った後の正味なのかといったことです。

また、作業内容定義の例として、上に掲載したBtoBでの顧客ステータスの階段でリードから案件にステータス変更を行う前に、顧客の課題は何か、なぜそれが課題なのか、この課題を解決できるとどの様な効果がもたらされるのか、顧客の中でこの課題対応することが公式承認されているのか、競合他社はいるのか、予算はどの程度なのか、決定プロセスはどのようになっているのか等の情報を収集することを義務付けるといったことです。更に、この内容を担当だけではなく管轄するマネージャーが把握しているのかをチェックする手順も必要になるかもしれません。

このように言葉の定義、作業手順を定めお互いで共有することで初めて「共通言語」と言えるものが構築できます。ある状況であることが把握できると次に、対応策を段階になります。ここでも文化・言語の違う人間同士が理解しやすいように共通言語、特に作業・活動の内容を定義することが必要です。

三つ目にその活動状況がリアルタイムに把握できる仕掛けを用意する必要があります。これによって、適宜迅速な対応が組織だってできるようになります。

以上が状況の可視化の内容です。状況の可視化をマーケティング・営業・アフターサービス全体を通して行う活動については、こちらを参照ください。


5.3.2 製品の多様化 5.3.3 設計:多様化のコストを減らす



内容としては、5.1.15.1.4で述べたものと同じです。ここでは、気候・季節の変化の違いによる差異に対応することを目的としています。


5.4.1 価値の発見・再定義



四つ目の要素は、E:経済的な差異です。新興国へ製品販売で進出しようと考える場合には特に大きな壁になる要素です。良いモノであっても、購買力に見合ったものでないと売れない状況が発生します。

日本のアレは世界でも売れんのか?」でも、価格設定をその国での類似カテゴリー製品と同じに設定していました。一方で販売価格を闇雲に下げるだけでは、収益確保が難しくなりますしブランドイメージへの悪影響も非常にあります。

ベトナムに進出した某家電メーカーが看板商品である液晶テレビを販売するのに参入当初値引きで対応していたところ、「安値のメーカー」というイメージが市場に蔓延してしまいその後の対応に非常に苦労したことがあります。

このような状況を防ぐには、機能を絞り進出先の購買力に見合った原価のセカンドブランドを投入することが考えられます。機能を絞るには、進出先の顧客たちがその商品としての価値をどこに見出すのかを見極める必要があります。顧客が何に価値を見出し、製品として再定義する作業がこの項目の内容になります。


5.4.2 製品の多様化 5.4.3 設計:多様化のコストを減らす



対応策の内容としては、5.1.15.1.4と同じです。目的は購買力の差に対応するための原価低減にあります。


まとめ



4回に分けて海外進出におけるリスクの対応戦略を33個紹介してきました。全てを活用するものでもありませんし、また企業及び市場の状況によっては、別の対応策が必要な状況もあると思われます。リスク対応を考えるときのチェックリスト、あるいは視点のチェックリストとして活用してもらえると幸甚です。

内容に関してご意見、ご質問等ありましたらこちらからお問い合わせください。