2013年5月7日火曜日

世界で成功するための5つのステップ 「コークの味は国ごとに違うべきか」から

+水谷穣

複数回にわたって紹介してきました「コークの味は国ごとに変えるべきか」この投稿が最終回です。今更なのですが、本の目次を紹介しておきます。各章の見出しの下の文章もそのまま引用しています。


“目次
第一部 フラット化しない世界
世界共通戦略を打ち出したコカ・コーラ本部と独自路線を進んだ日本コカ・コーラ。さてその結果は?
第二章 ウォルマートは外国であまり儲けていない
グーグルとウォルマートが国外進出で味わった苦難。グローバル化で消え去ったはずだった「国境」がビジネスにもたらす影響とは?
第三章 ハーゲンダッツはヨーロッパの会社ではない
国境の向こうとこちら-そこにある差異はマイナスばかりではない。そこから価値を生み出せばいいのだ。それを考える枠組みとは?
第二部 国ごとの違いを成功につなぐ
第四章 インドのマクドナルドには羊ハンバーガーがある
第五章 トヨタの生産ネットワークはここがすごい
第六章 だからレゴは後発メーカーの追随を許した
第七章 IBMはなぜ新興国の社員を3倍にしたか
第八章 世界で成功するための5つのステップ
世界が真にグローバルになるのはまだ先のこと。
この不確実な時代にどう対応すればいいのか。真のグローバル戦略実践への処方箋。“


本書におけるパンカジ教授の一貫した主張は、「世界がフラット化することは当面ない、であれば企業がグローバルで活動するためにはその違いを上手にマネージすることが必要であり、多くの企業のやり方を見ると改善の余地が非常に大きい」ということです。国際統合の度合いは、時期的に上がったり下がったりすることはあるかもしれませんが、統合度合いが上がったとしても国ごとの差異が無視できるほどにはなりそうにないし、下がったとしても国際的な経済活動が一切なくなることもないだろうという予測が成り立ちます。

道をしめす


ただ、近代企業のグローバル化の変遷を見ていると、戦争やベルリンの壁崩壊などの体制変更、通貨危機、新興国の台頭など様々な出来事が起きておりそのたびに戦略を変更することは得策ではないと教授は考えているようです。この状況へのアドバイスとしてどの様にクロスボーダー事業に取り組むかの基本姿勢を5つ上げています。

1.たとえ、最終的には世界の統合がもっと進むと信じていても、躓いたり回り道したりすることだってあると考える


クロスボーダー事業は基本的には、長期的なスパンで考える必要があると言う事がメッセージの様です。その例としてゴールドマン・サックスはウォール街で初めてソ連崩壊後のロシアに経営資源を投入した会社ですが、1998年のロシア危機と同国の国債デフォルトの際に撤退し、何年もたった後に再進出したために、2005年時点ではロシア株式・債券引受業務でのランキングが24位だという事例を提示しています。

2.さまざまな、「予測可能なサプライズ」に注意する


先にも述べたように、グローバル環境では大なり小なり予測可能または起こり得るサプライズは存在します。これらのリスクに対応するすべを持つべきで、少なくとも事前にそのインパクトは分析しておくことを勧めています。

3.物事を業界レベルや企業レベルに掘り下げることによって、予測能力を高める


リスクの分析は、マクロではなくてミクロレベルで行うことが必要です。例えば再三リスクの一つとして挙げている為替の変動一つにとっても、その企業の進出形態によって受ける影響は違います。

4.ビジネスが様々な結果(グローバリゼーションの将来に関するものを含む)をもたらすことの重要性を認識する


企業の活動は、社会的な影響力を持つので言動には注意することを勧めています。ユニクロ柳井会長の「年収100万円」発言が最近話題になっていますが、この手のことだと私は理解しました。

5.未来にばかり目を向けて、今をないがしろにしない。


“グローバリゼーションへの風向きが順風か逆風かも含め、未来はグローバル戦略がうまくいくかどうかを大きく左右する。しかし、だからといって影響を及ぼしうる他の要素、特に今そこにある要素をないがしろにしてはいけない。本書で繰り返し強調しているのは、グローバル戦略の今の状況は改善の余地が非常に大きいということである。改善を試みる方法の一つは、行動を始めることだ。図8-1(347ページ)は始めるための5つのステップを描いている。順序は図のとおりでなくてもかまわない。本章の後半はこのステップについて述べる。”

81 グローバル戦略の再検討:実践に取り掛かるための5つのステップ

1.業績の分析
2.業界、競争力の分析
3.差異の分析:CAGEな隔たりの枠組み
4.戦略オプションの策定:AAA戦略
5.価値の評価:ADDING価値スコアカード

戦略の実行に向けて


ここで挙げる五段階のステップは、まず背景分析に始まり、それから戦略オプションの明確な策定と評価に移ります。

1.業績の評価


そもそもグローバル事業がうまくいっているかどうかを評価することは重要です。(筆者注:これから海外進出を考えている企業にとっても国内でのビジネスを再評価することは、そのビジネスモデルをどの様に展開するか考える上で大事だと思います。)この際に少なくとも、地理的な側面で業績を分析するのが重要だと教授は言います。(ただし、分解する際の切り口は、5章で議論したように集約戦略と同じぐらいさまざまです。)

状況を可視化することで、今後何をすべきかを見極めるきっかけになります。

2.業界と競争力の分析


次に9つの問題(感覚ではなく、データに基づいて回答できる)を以下にあげます。これらの問題の分析にあたっては、各業界独自の観点から分析することと、10年以上などの長い時間枠での変化を見ることが大事なようです。

“クロスボーダーでの業界と競争力の分析に関する九つの問題
1.   上位三社から誤射の売上高が占める比率 本当に上昇しているか
2.   業界首位の企業や、業界内の順位、シェアの変動 誰にでもわかる業界首位や中核企業が存在するか。するなら、その地位にある企業どれほどはがしく入れ替わっているか。
3.   世界総生産に対する国際貿易の割合、総固定資本形成に対する海外直接投資の割合、(たとえばクロスボーダーでの買収・合併に対する)国際間の合弁や戦略的提携の割合 こういった国際統合の標準的な尺度がどうなっているか。
4.   クロスボーダーでの標準化(最もはっきりわかるのは製品である) 本当に進んでいるのか
5.   実質価格の下落 これが生産性向上のノルマにどんな影響を及ぼすか。
6.   業界の収益、特に経済的利益 国ごとに収益性がどれほど異なるか
7.   収益性と規模の関係(あれば) 収益性はグローバル、地域、国の各レベルで、あるいは工場や顧客のレベルで規模に左右されるか。
8.   納入業者、競合他社、協力企業、買い手の間における経済的利益の分配 お金はどこに流れているか
9.   広告・マーケティング、研究開発、労働(更に資本や特化したインプット) これらの支出項目の内どれが自社業界では比較的大きいか。また、その点から見ると自社の業界はどんなタイプの業界に分類できるか。”

3.差異の分析:CAGEな隔たりの枠組み


もともと本書は完全にフラット化していく世界=グローバリゼーションに対抗する考え方として、世界はセミ・グローバリゼーションであると言うことを立脚点としています。国ごとに存在する差異を考える枠組みとしてCAGEが紹介され、その差異を測るために隔たりという尺度を使用しています。



これ等には二つの目的があると教授は言っています。
l  数量的な尺度を導入することで、より客観的な議論を展開する
l  本拠地の国からの隔たりを考慮せず、国を一面的に特徴づけて行う、よくある類の分析を退け、議論に二面的または多面的な要素を加える。

4. 戦略オプションの策定:AAA戦略


国ごとの差異を味方につける戦略として「適応」「集約」「裁定」が紹介されました。これらを適用する手続きの重要な点として、次の三点が挙げられています。

“まず評価を行う段階では選択肢を複数持っておいた方がいい。次に、戦略オプションは虚空から突然出現することは無い。策定し、更に策定の事跡を残すべきである。第三に、検討する戦略オプションの選択肢を改善することに、戦略オプションそのものの評価を改善することと同じだけ気を配る必要がある”

5.価値の評価:ADDING価値スコアカード


教授のもう一つの主張は、グローバル活動の評価には売上高や損益計算書上の利益ではなく「価値」を使うべきだということです。単に売上高だけで海外進出を決める危険性は、前回の投稿でも触れています。前回の投稿で二つの戦略を紹介しましたが、その評価に使ったのがADDING価値スコアカードです。
本書の内容紹介1回目でその抜粋版を紹介しましたが、重要な内容なので全体を掲載します。


ADDING価値スコアカードの応用


内容紹介とADDING価値スコアカードの適応例で七回にわたって投稿してきました。
本としてはグローバルに手広く展開している企業の海外戦略を見直すためのガイドラインとして活用してもらう事を目的としていますが、今後増えるであろう中小規模の海外進出を成功させるための拠り所としても使えると思います。特にCAGE分析とADDING価値スコアカードはユニーク且つ、一般的な市場分析では得られない気づきやリスクを洗い出すツールとして有用だと思います。御社の海外戦略立案・見直しに是非活用いただければと思います。


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