2013年4月19日金曜日

8000人以上のアジア人財へのアンケート結果に基づくアジアにおける企業の国別人気度調査から

先日お会いした方から、この調査内容を教えて頂きました。

東南アジア+インド8か国にインターネット求人サイトを運営するジョブストリートが行なった地域内のホワイトカラーに対して企業の人気を調査した結果を資料にまとめたものです。2008年、2010年に引き続き3回目とのことです。

海外進出を計画・実行されている企業にとって、人財をいかに確保するかは常について回る課題です。よく聞かれるなやみは、「すぐ辞める」「パフォーマンスが悪い」などですが、これ等の悩みを解決するうえで、非常に示唆に富んだ内容だと思うので、紹介します。

なお、こちらに掲載したグラフ、表はジョブストリート・アセアンビジネスコンサルティング株式会社 より頂いた資料を基に切り貼りし許可を得て掲載します。

調査の概要


2012年8月1日~15日にかけて、ジョブストリートに登録するマレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、タイ、インドのホワイトカラー及びキャリアインターナショナル社に登録する中国のホワイトカラーを対象に調査、回答した8,294人について集計。

アジアにおける企業の国別人気度調査の概要


どの国の企業で働きたいか


企業の国籍別人気度最も人気度が高かったのは、アメリカ企業。「是非とも働きたい」「機会があれば働きたい」を合わせて83.1%になっている。3位に地元企業が入り、日本企業は6位となっている。居住している国別のランキングでは、インドネシアを除きアメリカが全ての国でトップになっている。

インドネシアでは、地元企業が1位になっていることと、シンガポールでは日本を含めたアジアの国々は欧米、シンガポールより下位に位置づけられている。

この辺りは、国民性、教育事情が反映されているようです。


日本企業に対する居住国別人気度ランキング


日本企業にフォーカスしてみると、最も日本企業に対するイメージが良いのは、タイ。その後、フィリピン、インド、インドネシアが続いている。
居住国別日本企業人気度ランキング

私見ですが、マレーシアはLook East政策を以前取っていたのに加え、現在でも毎年数百人単位の日本への留学生がおり、比較的親日度は高いと思います。やはり製造業の生産拠点のプレゼンスが低下している影響があるのかもしれません。一方タイでのイメージが良いのは、タイそのものが自動車生産拠点としての地位を確保し、国産OEMがそれぞれ拠点を構えているのに加え、2nd、場合によっては3rd Tierが進出しているため、プレゼンスがそれなりにある事の影響と考えられます。


とくに印象に残った企業


ここからが、興味深い調査内容です。

実際に勤務してみて特に印象に残った企業の国籍を聞いてみたところ、日本企業は、アメリカ・地元に続き3位を占めている。地元企業、アメリカ企業勤務は数が多いため、これを勤務した者のうち印象に残ったとする者の割合を出すと日本企業はアメリカに次いで2位になり、その勤務者に強い印象を与えてるといえる。

持っている印象がどのようなものかへの回答は70数%の人が日本企業にポジティブな印象を持っている。

外国人にとって日本企業の印象例ただ、その内容を見てみると左図の内容になっている。

自由記述で数は多くないと思われますが、ネガティブな印象の中には左の図に示されるようにかなり辛辣なものが見受けられます。

一方アメリカ企業のポジティブな印象は、次のようになっている。

□ 成長の機会が与えられる
□ 給与・手当てが良い
□ 従業員に対するケア
□ ワークライフバランスが良い
□ 日本企業ほど厳密なルールが無く、フレキシブルである

記事からはアメリカ企業へのポジティブな印象がどの程度のボリュームなのか読み取れません。ただ、日本企業の現地法人社長の日本人比率がアジアにおいては80%を超えている事*1)、日本企業には「成長の機会が与えられる」というポジティブコメントが無い事がインターナショナル企業*2)から脱し切れていない状況が見て取れると思います。

多くの日系海外拠点外国籍スタッフと接してきた経験からいうと、これが優秀な外国籍スタッフが定着しにくい根本原因だと思います。投稿の最後でもう一度触れます。

*1) 社団法人 日本在外企業協会 「海外現地法人のグローバル経営化に関するアンケート調査」
*2) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「グローバル人材マネジメントの現状と課題」

称賛に値するグローバル企業はどこか


自由記述をまとめた結果、上位30位(と記事にはありますが、トップ29?)の中に顔を出している日本企業は8位のトヨタと24位のソニー。1位から5位までの間にGoogle、Apple、Microsoft、IBMと4つも米国IT企業が名を連ねている。これは、ネットサーベイのためのバイアスが若干あると考えられる。

称賛される理由として、アメリカ企業と日本企業の差が表れているのが、アメリカは「優れたコーポレートブランディング」であるのが日本は「競争力のある製品とサービス」が1位になっている点だ。

記事には原因分析されていませんが、私の勝手な推測では日本企業はあくまでも「モノ創り」組織であり、アメリカ企業はビジネス組織だということの表れではないでしょうか。ここに、日本企業が取り組むべきポイントの2つ目があると感じました。

グローバル企業のマネージャーに求める資質


この項は、今回のサーベイで初めて行った調査だ。
グラフの中に記述されている10項目について、「非常に重要である」「重要である」「多少重要である」「関係ない」の4段階で評価してもらい、それぞれの項目で「非常に重要である」「重要である」を選んだ人の比率を表したものの回答者全員でみたものが下のグラフになる。
グローバル企業のマネージャーに求める資質

国別にみると、Integrityの重要性を軸に、4つのグループに分けられる。インドネシア・マレーシア・フィリッピン・シンガポールの4か国はいずれもIntegrityが1位、Competentが2位になっている。中国は独自のぱたーんを示し、Competentが1位となっています。インドは、CreativeとPerformance-consciousが上位を占めていますが、Integrity・Competent・Inspiring・Risk-takingが僅差で続いている。

タイは、Fair-mindedやForward-lookingが上位であり、Competentが重視されないなど、他国とは明らかに違う結果を示している。

この結果の日本企業への示唆を見るために、今回、日本企業で働きたい人・働きたくない人の別に、マネージャーに求める資質を集計してみたものが次のグラフになる。


日本企業で働きたい人・働きたくない人別マネージャーに求める資質

日本企業で働きたい人の方が高い数値を示しているのが、Integrity・Creativeであり、働きたくない人の方が高い数値を示しているのはCompetent・Inspiring・Caringである。勤労意欲とその人がマネージャーの資質に要求するものに関連があると仮定すると、前者は相対的に日本企業が持っている、後者は持っていない・かけていると認識されている可能性がある。


結論


冒頭で述べたとおり、これからの日本企業はアメリカ・ヨーロッパの多国籍企業および東南アジア・インドの優秀企業をベンチマークし、自らの働く場としての魅力を明確に定義し発信するエンプロイヤー・ブランディングに注力していく必要がある。

また本文では触れなかったが、MBA保持者の間ではインド企業の人気は高く、日本企業の人気は低い。優秀人材が注目する企業になっていくためには、さらにMBA保持者をもひきつけ、有効に活用できるような合理的な経営スタイルを導入することも重要であろう。


筆者情報

ジョブストリート・アジアンビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役 菱垣 雄介
株式会社 ライトワークス グローバル人材サポート部 野口 昭彦
調査監修:早稲田大学ビジネススクール教授 大滝 令嗣

私見


途中「ですます」調と「である」調が混ざっていて読みにくかったかもしれません。「ですます」調は私のコメントです。

海外進出企業の人材に関しての悩みで良く聞くのは、次の2つです。

  • 人材が定着しない(特に優秀な人材)
  • スキルにミスマッチが生じることが多い
2番目の課題は1番目の課題を引き起こす要因とも捉えられるので、そういう観点で言うと課題は1つです。

グローバルキャリアパスの構築が重要


なぜ、優秀な人材が定着しないのか、皆さんはどう思われます?

多くの日本企業現地法人外国籍スタッフと話をした経験からいうと、「自分の将来に夢が持てないから」だと私は思います。特にMBAを取得しているような人たちから見ると、アメリカ・欧州企業は現地法人社長・重役のポジションだけでなく、リージョナル本社への登用、更にいうと本社または、他の地域での魅力的なポジションを得る機会が多くあります。日本企業にはそれが見えてこないのです。記事で言及しているエンプロイヤー・ブランディングを高めるためには、このようなキャリアパスを明確に設定する必要があると思います。

先の日本在外企業協会の調査結果を見ると、欧州・ロシアの外国籍社長比率は2010年で46%とあります。私がヨーロッパに駐在していた90年代は5%を切っていたことを考えると随分欧州では外国籍社長が増えています。しかし、在籍者全員に提示できるキャリアパスとそれを運営するための評価基準の整備は、この記事のサーベイ、日本在外企業協会の調査内容を見るとこれからだと思われます。

足元の制度整備から


グローバルキャリアパス構築・運用は、グループ全体で取り組む必要があり短期的な課題解決にはつながりません。であれば、現法レベルで直ぐにでも取り組める対応策が必要です。海外進出していて、Job Descriptionを用意していない企業は少ないと思います。無い場合は、至急作成する事をお勧めします。

Job Descriptionがあってもスキルミスマッチが発生している場合は、その中身の見直しが必要です。問題は、どの様に見直すかですが、スキルミスマッチが発生している原因を潰さないと意味がありません。

日本国内の場合、部門の責任範囲が代表的なものだけ明確になっていて、それ以外の仕事はスタッフの「自発的行為」によってカバーされていることが多々あります。外国人にはこれは通用しません。逆に言うと、日本人には「Job Descriptionに書かれていないからやらない」という外国籍スタッフは「言われた事しかやらない」という不満の対象にしかなりません。

このすれ違いを称してスキルミスマッチと言っているケースが多々見受けられます。以前の日本企業では終身雇用が保障されていたため、阿吽の呼吸で本来の役割でもないことをやることがひいては自分のメリットにもなっていました。海外ではその環境が無いのです。余談ですが、国内でも終身雇用は随分前に崩壊し、若手は外国人スタッフと同じような行動をとることが多くなっているのではないでしょうか。

では、どうするか?

大きく言うと2つのアプローチがあると思います。その一つは、Job Descriptionの詳細化です。部署間での抜け漏れが出ないような内容にするのですが、この際のコツは既存の部署の役割ではなく、現在の事業環境から本来あるべき機能を定義することです。全体像が定義出来たら、その内容を部署に割り当てます。こちらはいわば北風アプローチ。2~3ヶ月で実施できる短期施策です。

二つ目のアプローチは、南風アプローチでJob Descriptionが網羅的でなくても良い環境を作り上げることです。北風アプローチより、少し時間がかかりますが定着率を上げる効果は高いと思います。
ポイントだけお伝えすると、「なぜ」を伝えることです。「なぜ」この工程・業務は必要なのか、「なぜ」この品質が求められるのか等々。なぜとその背後にあるミッション≒責任を繰り返し伝えることで、「何を」が達成できない時には別の方法を取ってでも目的を達成することが出来るようになります。

いずれのアプローチにも、期間とキャリアパスの目標設定とその評価を行う評価制度を立ち上げ運用することでより制度の浸透を図ることが重要です。詳細は別の機会に投稿しますが、お急ぎの方は、こちらからお問い合わせください。 

今回は、8000人を超えるアジアホワイトカラーの調査を基にした記事をご紹介しました。ご意見、コメント頂けると嬉しいです。





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