2013年3月14日木曜日

事業の海外展開を成功させるために必要なものを考える(1)


1.始めに

私が英国拠点の立ち上げに最初にかかわったのは、1989年とかなり前になります。かなり前なので、今と状況が違うと言うご指摘もあるとは思います。しかし、2006年にタイでスタートアップしたばかりの海外拠点の営業支援をした経験から言うと、事業を成功させると言う観点ではかなり共通している点もあると考えています。

現在、海外展開を始めようと考えている企業の方々、すでに展開はしたのだけれども思うほど順調ではない方々、順調だけれどももっとよくできないかと考えている方々、それぞれが状況を良くしていくうえでのヒントになる情報を発信できればと思い、このブログを始めました。

ブログタイトルの下にも書きましたが、私と同じく海外拠点の立ち上げにかかわった方は多いと思います。その方々が知恵を出し合うような場になればいいなと思っています。
自分自身の会社立ち上げと時期を同じくして開設しているので、あまり頻繁に更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。

さて、第一回のテーマとして「海外展開を成功させるために必要なものを考える」を取り上げました。

まずブログのタイトルにもなっている、そもそも自社にとって海外展開がなぜ必要なのか?を明確にすることが重要だと思います。これに関しては非常に重いテーマなので、別途投稿したいと考えています。

コークの味は、国ごとに違うべきか」著者:パンカジ・ゲマワット ハーバードビジネススクール教授2009年初刊は、世界の一流企業のグローバル戦略とその成果を分析している本です。この本の冒頭部分に次の内容の記述があります。

世界はフラット化し、国境に意味なんてなくなった。これからは市場もグローバル、生産もグローバルに!そんな「常識」をまるまる信じて大丈夫なのか? 答えはNo。今も国境のあちらとこちらに「違い」は生き残っているのだ。(帯の文章より)

ここで言っているフラット化とは、経済・情報・サービスの提供に関して国境がなくなってきたと言う意味で使っていると思われますが、それ以外の事については明らかにクロスボーダーの環境では「違い」が存在している事を認識することが必要だと言うのがゲマワット教授の主張であり、私も同意見で今日取り上げるテーマです。

日本と海外では違いがあるのは分かっている、そんな当たり前な事を書くな!と言われそうなのですが、意外と多くの企業がそのことに気が付かずに行動を起こしていると思います。

2.日本の事業との根本的な違い

自分なりの結論から先に言いますと、海外進出はすべて「起業」だと言う事です。これが日本で行なってきた事業との根本的な違いです。
進出企業の多くに海外展開は「起業=ベンチャー」だという意識が薄いのではないかと思います。何故なら、海外展開を単に日本でのビジネスの場所が変わるだけと捉えている事が原因と思われる誤りを多くの企業が犯している事実を見ているからです。この根本的な経営環境の違いに対する対応策を用意せずに、表面的な違いにばかり目を奪われていると海外事業の成功はありえません。

私がロンドン駐在となり、イギリス拠点の立ち上げにかかわった当時はEU統合が目前ので、大きな地域経済誕生の期待感が非常に大きい時期でした。経済成長も大きいと予想されていたことから、日本から10社程のSIer(システムインテグレーター:システムのゼネコンの様な業態)が進出を果たしていました。いずれも日本のIT市場ではそれなりの規模の会社であり、その多くは取引先が海外拠点のIT支援を行って欲しいと要請されたのが進出のきっかけであるケースが多かったと記憶しています。進出先はロンドンだけではなく、ヨーロッパの複数都市に及んでいました。ところがこれ等の企業は90年代中盤を待たずして、そのほとんどが拠点閉鎖をし、残された拠点も規模縮小または完全に撤退をしています。

当時のヨーロッパにおける日系企業数は、英国に約2,000社、大陸に約1,000社と言われていました。日本から比べると勿論その絶対数は少ないのですが、競争相手もそれなりに少なく、なによりITサービスの相場が日本では考えられないくらいに高い事(例えば会計機能だけを知っているERPコンサルタントで£1,000/日程度、当時のレートだと125万円)を考えると、クライアントさえ確保できれば、そんなに厳しい経営環境ではありませんでした。

私がかかわっていた事業では2000年代中盤に、ファーム全体がグローバル組織になることから日本法人の支店としての拠点を閉鎖しました。それまでは、幸いなことに現地の営業利益で15%上回る利益を確保できていました。その差はどこから生まれたのでしょう?下図に経営上影響度合いが高いと思われる要素の比較を用意しました。

ITサービスにおける海外事業成功要因比較
ITサービスにおける海外事業成功要因比較


見て頂くと理解いただけると思いますが、日系SIerの多くは固定費が高く、売上単価が低い。かつ小規模な会社が顧客ベースを拡大するために必要な販売チャネルを構築しにくい状況なことが明確です。
少し詳しく分析すると、例えばITビジネスにとって固定費の筆頭である人件費。
住宅家賃がメチャクチャ高く、また、英国の所得税率は累進課税といいながら日本円に換算して年額200万円程度以上は40%と中額所得者からすると目の玉が飛び出る程の高率であるため手取りが一気に半減し、個人的には、大変な思いをした時期もありました。(女房にはいまだにぶつぶつ言われます)しかし経営観点から見ると、ネット保障・各種手当支給の日系SIerに比べると一人当たりの負担額は、税金の負担も含めて半分以下だったと思われます。

私の場合、社長にある意味だまされたという側面もありますが、ベンチャーの経営者となった今考えると起業時に可能な限り固定費を抑えると言う事は当たり前のことだと思います。

次のポイントは、営業の仕組みです。企業にとって売上が上がらない限り、存続はあり得ません。拡大させようと思うのであれば、先が見える収入を確保することが非常に大事なことは、経営者の皆さんであれば常識だと思います。
日本であれば、波はもちろんありますがそれなりの顧客ベースがあるために、何となく売り上げをある程度確保できるというのが海外進出をもくろんでいる企業の大半だと思います。ところが、海外拠点では進出のきっかけになる顧客は別として、地盤が全くない状況なのはベンチャー企業そのものです。

固定費に影響する情報については国により状況は違います。ヨーロッパの様には厳しくない国も多いと思います。対策を立てるには進出先の事情をしっかり把握することは必要です。逆に言うと、これ等のように知っていれば大丈夫な事に関しては会計士、弁護士などの多くの専門家に頼ったり、国によっては書物・インターネットで情報収集したりすることが可能だと思います。とはいっても、海外展開を検討されている企業の多くはここまでの情報収集で手一杯になってしまっているのではないでしょうか。

一方、事業を維持拡大するに十分な顧客基盤が全くない状況は、海外に進出する際には必ず直面する問題です。また、専門家に聞けばすぐ答えてもらえる「知識」ではなく、それぞれの企業が独自に考えて対応すべき「知恵」です。更に海外展開当初は、人数も少なくやらなければいけないことは多い状況なはずです。だとすると、進出先の状況に合わせて修正を加える必要はありますが、「営業プロセス:マーケットから固定・優良顧客を作り出す手順」を進出前から周到に準備することは、海外展開をする際の日本との根本的な違いに対応するために必要なことだと思います。

コメント、ご意見お待ちしています。
ぼつぼつ更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

1 件のコメント :

  1. 水谷 様

    日本データビジョンの高でございます。

    本日は、誠にありがとうございました。

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