2013年6月12日水曜日

海外進出のリスクを抑える33の戦略 (2)

+水谷穣


前回の投稿では、カテゴリー1:固定費の内要素2:事務所までのリスク対応戦略について記述しました。今回は、固定費カテゴリーの残り三つの要素について記述します。


海外進出時のリスクとその対応策
海外進出時のリスクとその対応策



1.3.1 アウトソース


固定費カテゴリーの3つ目の要素は、間接スタッフです。基本的な考え方として、事業にとって価値を生まない又は、自社の競争優位性に寄与しない業務に関してはアウトソースするものだと考えるべきです。

経理に関しては、単純な記帳(Book keeping)を対象としています。資金繰りなども含めた経営数値に関しての判断をするレベルを求めるのであれば、シッカリした人材を雇用すべきだと思います。

ただ、スタートアップ時には経営者自らが事業に関わる数値を把握するべきこと、単なる経理屋ではなく経営的な判断をできる人財はなかなか見つからないので、立ち上げ当初は営業バックグラウンドの方であっても自らが数値の把握に努めるべきだと私は思います。

記帳そのものは、価値を生み出す作業ではないのと税法・会計規則を順守した処理を行う必要があるのでアウトソースを前提に考えることをお勧めします。

受付、アシスタント、通訳なども同様です。国によりますが雇用すると、解雇を行うためにものすごい労力を費やさざるを得なくなる場合があります。このリスク回避の観点からも、アウトソースを検討する必要はあると思います。

1.4.1 レンタル工場活用



現地法人が直面している事業環境面の課題・リスク固定費カテゴリーの四つ目の要素は工場です。「製造業にとって工場は重要なのだから、シッカリしたものを立てる必要があるだろう。」というご意見もあると思います。

しかし、工場設備だけがあっても十分な品質のモノは作れません。モノ作り、品質、基本的な作業を習得した工場を動かす人財がなければ、製品は作れないのです。

現地法人が直面している商取引面の課題・リスク
ここに挙げた2つの図にあるように、人材の確保、品質の担保は海外進出企業にとっては大きな課題です。海外人材を育成するノウハウを蓄積できるまでは、比較的簡単な製品を作ることがその対応策になっています。

こういう状況を考えると、最初から最先端の向上を建設するのではなく、レンタル工場を活用することが得策と考えられます。

JETROのサイトに、レンタル工場の紹介がありますので参考にしてください。



1.4.2 低設備投資工場


同じ理由から、工場内に設置する設備も最初から最新のものである必要はありません。日本で不要になった中古の設備等を活用することを検討することが良いと思います。

1.4.3 アライアンス


海外工場開設にリスクがあるのであれば、そのリスクそのものを無くしてしまおうというのが、こちらの戦略です。ただし、上の図にあるように、ビジネスパートナーの確保も比率は低いですが、課題と考えている進出済み企業もあります。

更に、遠隔地から海外の企業をコントロールし納期を順守してもらい、品質を担保する、知的財産権の保護を担保することは非常にハードルが高いのではないかと思われます。

次のM&Aも含めて、客観的なリスク分析及び対応策の検討、ADDING価値分析を行って判断をするべきだと思います。アパレルでは海外工場に委託することは当たり前です。また、Keyenceに代表されるファブレス企業にとってはハードルが低い手法ですがM&Aも含めて、なぜこの戦略を取る必要があるかの明確化がポイントになります。

1.4.4 M&A


この戦略も、海外工場開設リスクそのものを無くしてしまう事を目的としています。
こちらの日本公庫総研のレポート(中小企業の「生産拠点を持たない海外展開」戦略)第3章に取組のポイントが紹介されているのといくつかのケーススタディーが載っているので、参考にしてください。

このレポートに書かれていない一般的なM&Aの留意点としては、業務なデューデリジェンス(DD)実施にあります。

財務的なDDは必ず実施されますが、M&Aを多数手掛けている総合商社でも業務的なDDは実施していないケースが多々あります。結果、買収後業務を開始してから様々な不都合が見つかることが多々あります。大手商社は体力もあるので、多少の思惑違いは乗り越えてしまいますが、体力のない中小企業にとってM&Aの失敗は命とりです。多少手間はかかりますが業務的なDDの実施をお勧めします。

1.5.1 リース


固定費カテゴリーの五つ目の要素は、その他の設備です。海外ではリースをする事での税法上のメリットはほぼありませんが、立ち上げ時のキャッシュアウトを抑える効果があります。

1.5.2 IT:クラウドサービスの活用


クラウドサービスの利点は三つあります。一つ目は立上げに要する時間が圧倒的に短い事です。

種々のIT機能を自前で構築しようとすると、自社内にサーバーを立てたりする必要が出てきます。本社の環境を使う事も可能ですが、海外で使えるようにするには様々なセキュリティー処置を取る必要があります。なので、準備期間が3ヶ月から6か月ほど必要になります。

一方でクラウドサービスは、インターネットへのアクセスさえできればすぐにでも使用可能です。

二つ目のメリットは、TCO(Total Cost of Ownership)が低い事です。上述したように、IT環境の構築はほとんど不要になるので初期投資を抑えることが出来ますし、種々のランニングコストも不要です。

海外拠点では人材の確保が難しい事は既に言及しました。ITの人材を確保することは、本業の人材を確保することよりさらに難しくなります。IT人材の人件費及び労務管理もクラウドを活用することで削減が可能になります。

最後のメリットは、意外かもしれませんが高いセキュリティーと可用性の担保が可能になる事です。慎重に選択する必要はありますが、世界中で使用可能なクラウドサービスでは、一企業では採用できないレベルの可用性、バックアップ体制、災害対応を取り入れています。

GoogleAmazonなどの世界的なクラウドサービス会社は、SAS70 TypeII、PCI DSSの要件に準拠しています。これらの基準の要件を見ると、一流企業の基幹系システムでもコスト高から採用を見送るような要件(例としてリアルタイムバックアップと、オフサイトバックアップの併用等)があり、それを満たしています。

例えば、Google Appsではe-mail、ドキュメント共有、グループウェアなどが提供されています。詳しくは、「Googleクラウドを使いたおすとこんなことが出来るらしい」を参照してください。


図「現地法人が直面している商取引面の課題・リスク」にあるように海外での課題に、現地でのマーケティングとビジネスパートナーの確保があります。最終的には、現地での活動が必要になりますがクラウドサービスを活用することで、進出前から準備を進めることが可能になります。

例えば、NetSuiteではWebサイトのホスティング、CRM、顧客セルフサービス、ECサイトのホスティング、ERP機能が複数言語、複数通貨で提供しています。このサービスを活用することで、日本で進出国向けのランディングページを含んだホームページを立ち上げ、見込み客を先行して確保し、そのままデータ移行をせずに進出先で引き続き業務を遂行することが出来ます。

また、市場から優良顧客へのプロセスをCRMに実装することで、進出国のスタッフへベストプラクティスを移植する支援を行う事も可能になります。

当然これらの業務状況は、日本からも見ることが出来るので、財務状況だけでなく業務レベルでの可視化を実現することが可能になり、海外事業の可視化レベルを非常に高いレベルで実現することが可能です。


ここまでで33の戦略の内11を紹介してきました。残りの22の戦略についても順次投稿していきます。

(2013年6月18日 海外進出時のリスクとその対応策に一部加筆しました)

海外進出のリスクを抑える33の戦略 (1)


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