前回までの投稿はこちらをご覧ください。
対応戦略全体をまとめた表を再掲します。
CAGE差異分析はパンカジ教授が提唱している分析手法で、企業が海外進出を行う際に進出先の環境が自国とどの様に違うかの分析を行うためのものです。
C:Culture文化的差異(隔たり)、
A:Administrative制度的差異、
G:Geographical地理的差異、
E:Economic経済的差異
の四つの切り口から分析を行います。それぞれの切り口での隔たりが大きければ大きいほど、ビジネスリスクが大きいというのが、パンカジ教授の研究で明らかにされています。ここでは、ビジネスリスクの要素としてこの四つを取り上げています。
5.1.1 製品の多様化
このカテゴリーの最初のリスク要素は、文化的な差異です。
1950年代以降繊維をはじめとした様々な品目で日米貿易摩擦が発生しました。日本では貯蓄率が高く消費に向かいにくい事がその原因の一つと言われています。しかし、高度成長期以降は三種の神器と言われた家電製品を始め様々な品物が消費されてきました。
自動車は70年代に二度オイルショックが起こった特殊事情があったにしろ、家電製品の需要は一貫として伸びていた時期であり、米国製品が買われなかった理由は日本の住環境に合った製品が無かったと言う事だと思います。
インターネットの普及で世界はフラット化してきたと言われています。それでは、現代では文化的な違いが以前として製品の売れ行きに影響があるのでしょうか?
先日の投稿で紹介した「日本のアレは世界で売れんのか?」という番組で、たらこスパとナポリタン、カレーパンとカレーうどんがそれぞれイタリアとインドで売れるのかという実験を行っていました。それぞれが売れてはいたのですが、やはりそれぞれの国での嗜好に、より適応させた商品の方が相対的に売れていました。この結果を見ると、やはり文化的な違いへの「適応」は必要だと言う事が理解できると思います。
この「適応」戦略の四つの要素の内の一つが製品の多様化になります。これは基本性能は維持したまま、その国の製品に対する評価基準の部分を変更しより売れやすくすることを目的としています。
この戦略のデメリットは、市場の規模にもよりますが製品を多様化することで規模のメリットを追求できにくくなることにあります。また、バリエーションが増えることで偏在庫、在庫過多など在庫効率を悪くするデメリットもあります。
5.1.2 プロトコル見直し
この図はBtoBでのビジネスに於いて、その顧客がどのような階段を経て優良顧客(長期間かつ売り上げ規模の大きい顧客)になるかを図式化したものです。
それぞれのステータスから次のステータスに行くには、必ず働きかけが必要です。例えば市場からリードに移るためには、自社製品の存在を知ってもらう必要があります。店頭で行うのか、広告で行うのか、インターネットを通して行うのか、チャネルの違いはありますが、働きかけの本質は情報提供です。
BtoCのビジネスにおいても同じことが言えます。AIDMAと言われるように、購買を決意するためにはA:注意をひき、I:興味を持ってもらい、D:欲しいという欲求を持ってもらい、M:記憶してもらい、A:行動してもらうステップがあります。このそれぞれのステップから次のステップに移るためには働きかけが必要です。
BtoBにおいても、BtoCに於いてもこの購買行動のステップは国境を越えて同じだと言われていますが、「何を」きっかけに次のステップに行くかに文化的な差異があります。従って、働きかけの本質である情報提供を行う際に、その文化に適した方法およびメッセージを伝える必要があります。これがプロトコルの見直しの内容です。
5.1.3 絞り込み(製品、地域、セグメント)
5.1.1で「適応」戦略の一つとしての製品の多様化を上げました。多様化することのデメリットは、上述した様に規模の経済を追求しにくい事にあります。絞り込み戦略は、文化的な差異に対応しつつ規模のメリットを追求することを目的としています。
製品で絞る場合には、多様化しないで通用する文化へしか進出しないということになります。地域、セグメントも絞り込みの範囲が違うだけで、基本的な考え方は同じです。
一方一つの国だけでは規模のメリットが追及できない場合、「集約」戦略を取ることも考えられます。この場合には、製品をその文化圏に一旦「適応」させ、同じ仕様で受け入れられる文化圏/国をまたがった地域に展開する事になります。複数の国に進出することが前提となるので、中小企業にはハードルが高いかもしれません。
5.1.4 設計:多様化のコストを減らす
この戦略も製品の多様化戦略のデメリットである、規模の経済を追求しにくいことへの対応を目的としています。規模の経済を追及すると言う事は、売上原価に占める固定費の比率を下げることを設計または、生産技術で追及するのがこの戦略です。
具体的には、多様化する製品の基本的な構造、機能等をプラットフォーム化し統一したり、若干形状が違う金型を汎用化する等の取り組みになります。
5.2.1 プロフェッショナルサービスの活用
CAGEカテゴリーの二番目の要素は、A:制度的な差異です。これは、資本構成(独資が許されているか否か)、税法(法人税、所得税、消費税等)、商習慣、商法、関税、営業許可、各種規制(安全基準)などの制度の違いによるリスクです。このリスクへの対応は最新の知識を得られるかによることから、その情報に精通したプロフェッショナル(会計士、税理士、弁護士)を活用するのがこの戦略の内容です。
5.2.2 現地化、アライアンス
この、戦略は海外企業の直接投資で独資が認められていない場合への対応策になります。
5.3.1 状況の可視化
3つ目の要素は、地理的な差異(隔たり)です。この要素には、コミュニケーションを取る際に障壁となる時差、コミュニケーション円滑化に欠かせない人の行き来を阻む要素となる物理的な距離、その国の文化・人々の気質を形成する基本となる気候や季節の移り変わりの違いなどが含まれます。
時差や物理的な距離は、どこでもドアが発明されない限りなくすことはできません。次善の策として、これ等の条件によって引き起こされかつビジネス遂行上非常に重要なコミュニケーションを効果的に行う事をこの戦略では目的としています。
コミュニケーションを効果的に行うには、まず相手の状態がどの様になっているかを知る必要があります。これを遠隔地で且つ文化・言語が違う場所同士で行うには、お互いの共通言語を持つ必要があります。ここでいう共通言語とは、数字の内容、発生タイミング、作業・活動の内容、その品質、レベル感を定義することを含みます。
数字内容の定義例として、売上は、正価なのかディスカウントを行った後の正味なのかといったことです。
また、作業内容定義の例として、上に掲載したBtoBでの顧客ステータスの階段でリードから案件にステータス変更を行う前に、顧客の課題は何か、なぜそれが課題なのか、この課題を解決できるとどの様な効果がもたらされるのか、顧客の中でこの課題対応することが公式承認されているのか、競合他社はいるのか、予算はどの程度なのか、決定プロセスはどのようになっているのか等の情報を収集することを義務付けるといったことです。更に、この内容を担当だけではなく管轄するマネージャーが把握しているのかをチェックする手順も必要になるかもしれません。
このように言葉の定義、作業手順を定めお互いで共有することで初めて「共通言語」と言えるものが構築できます。ある状況であることが把握できると次に、対応策を段階になります。ここでも文化・言語の違う人間同士が理解しやすいように共通言語、特に作業・活動の内容を定義することが必要です。
三つ目にその活動状況がリアルタイムに把握できる仕掛けを用意する必要があります。これによって、適宜迅速な対応が組織だってできるようになります。
以上が状況の可視化の内容です。状況の可視化をマーケティング・営業・アフターサービス全体を通して行う活動については、こちらを参照ください。
5.3.2 製品の多様化 5.3.3 設計:多様化のコストを減らす
内容としては、5.1.1、5.1.4で述べたものと同じです。ここでは、気候・季節の変化の違いによる差異に対応することを目的としています。
5.4.1 価値の発見・再定義
四つ目の要素は、E:経済的な差異です。新興国へ製品販売で進出しようと考える場合には特に大きな壁になる要素です。良いモノであっても、購買力に見合ったものでないと売れない状況が発生します。
「日本のアレは世界でも売れんのか?」でも、価格設定をその国での類似カテゴリー製品と同じに設定していました。一方で販売価格を闇雲に下げるだけでは、収益確保が難しくなりますしブランドイメージへの悪影響も非常にあります。
ベトナムに進出した某家電メーカーが看板商品である液晶テレビを販売するのに参入当初値引きで対応していたところ、「安値のメーカー」というイメージが市場に蔓延してしまいその後の対応に非常に苦労したことがあります。
このような状況を防ぐには、機能を絞り進出先の購買力に見合った原価のセカンドブランドを投入することが考えられます。機能を絞るには、進出先の顧客たちがその商品としての価値をどこに見出すのかを見極める必要があります。顧客が何に価値を見出し、製品として再定義する作業がこの項目の内容になります。
5.4.2 製品の多様化 5.4.3 設計:多様化のコストを減らす
対応策の内容としては、5.1.1と5.1.4と同じです。目的は購買力の差に対応するための原価低減にあります。
まとめ
4回に分けて海外進出におけるリスクの対応戦略を33個紹介してきました。全てを活用するものでもありませんし、また企業及び市場の状況によっては、別の対応策が必要な状況もあると思われます。リスク対応を考えるときのチェックリスト、あるいは視点のチェックリストとして活用してもらえると幸甚です。
内容に関してご意見、ご質問等ありましたらこちらからお問い合わせください。